23.フィブリンの陰で#8

 広場は騒然とした。
 公の場でリーダーに楯つくことなど許されなかった。まして、このような重大な決定に対して。それでもハヴェオを批難する声は少なかった。どういうことか説明しろという声が次第に大きくなる。
 ハヴェオに話させろ、ガランの話はもういいと、率先して声を出している者達がいた。マカフィのチームだ。立ちあがり口に手をあて、野次るように。ウィルもハルも、腕を掴まれ無理やり立たされた。若く力強い声の束に、他の村人達の声も惹き込まれ、より合わさり、やがてそれはハヴェオの反抗を支援する大合唱になった。
 ハヴェオは満足そうに笑みを浮かべている。
 やがて彼は腕を振り、鎮まれと合図した。そして沈黙するガランの横で、とうとうと語り出した。
「ガランの計画は、二重の意味で我々を危険にさらす。ひとつはバラバラに別れて生きるということ。森にはどんな生き物がいるかわからないのだ、数十人程度に別れたところを襲われたら、対抗できないではないか。もうひとつは移住に半年も掛けるということ。なんと悠長な話だ! 残された時間は少ないというのに。私には理解できない。皆、不安だろう、不安なはずだ。私にはわかる。私はそれを正直に言ったのだ。賛成できないと。何度も言った、しかし彼は耳を貸さなかった。自分の計画が一番良いのだと頑固に言い張った。私だけではない、村の運営に関わる者達、誰一人として彼の案には賛成していないというのに。そして今夜、まるでもう決定したことのように発表したのだ。なんという独断!なんという専横!」
「独断だ!」
「横暴だ!」
 ハヴェオの言葉尻に乗る声が、広場のあちこちから上がった。どれも若い声だ。ひときわ大きく、マカフィ達が騒ぐ。「ガラン! リーダー! どういうことか、説明しろ!」
 ウィルは騒ぎの輪から外れたかった。だが誰かの手が後ろから、ズボンのベルトをがっちり掴んでいる。横を見るとハルは露骨に腕を捕えられていた。
 これでわかった。ハヴェオと村の若者達で、事前に示し合わせていたのだ。だからハヴェオは、ああも自信たっぷりの態度で反抗したのだ。さらにわかった。「効き目」の意味が。この輪の中にウィルがいたほうが都合がいいと、彼らは踏んだのだ。事実、こちらに注目する老人達の視線が自分に吸いつき、竜使いも異議を唱えているぞと口々に話しているのが見える。
 今、この広場で落ち着き払っているのは――ひとり、当のガランだけだった。
 彼は、初めこそは驚いた表情を見せていたが、ハヴェオが演説をぶちあげるころには普段どおりの穏やかさで、自分の補佐役の反抗を淡々と聞いていた。
 彼の静けさの前に、野次は次第に空回りしはじめた。マカフィの呟きがウィルにも届いた。「なんだよ、何とか言えよ……俺達が馬鹿みてえだ」。落ち着いていたはずのハヴェオも、イライラした調子でガランと広場の様子を交互に眺めている。