「Capital Forest」
リヴァさんが、カピタルのプロローグみたいなのを書いてくださいました(-人-) (「みたいなの」って失礼やろか。ストーリーとプロットの間をとった創作と読みました) これはもう続きを書くしかありません。スタイルも、リヴァさんにあわせよ。 こんなのい…
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し、以下の要件で「Capital Forest」全文章を開放します。 http://i.creativecommons.org/l/by-nc/2.1/jp/88x31.png クリエイティブ・コモンズ(表示 - 非営利) タイトル : Capital Forest 著作者 : わたりとり …
暗闇は三日三晩続きました。いいえ、三日だったかどうかもわからない。その間、朝も夜も来なかったのだから。ただ、竜が三度眠り、三度目を覚ましたから、三日だろうと思えるだけです。 私たちはメルトダウンの瞬間をずっと恐れてきた。きっと一瞬で世界が溶…
ソディックの一声が返って来た。 「作動させた」 森の果てに目を凝らす。ウィルは南を。シンは北を。 ああ、確かに。360度、森のふちをぐるりと囲み、あの色がせり上がってきた。白でも黒でもない、光でも闇でもない色。ゆっくりと、じりじりと。 風の音ばか…
眼下に広がる眺め。どこまでも続く森の緑。 はるか遠くに光の筋がきらめき蛇行している。ああ、あれはバルワ大河だ。ここから見えるなんて。南東のけわしかった山岳地帯、その頂(いただき)に薄い雲が掛かっている。東の伸びやかな丘陵地帯。ここからは蒼み…
壁がスッと消えたその先に、箱型の空間が現れた。ここに入れば上へ行けるのか。片足を踏み入れる。と、ファリウスの声が遮った。 「待て! その装置は使うな、出ろ、早く!」 めまぐるしく変わる指示にふらつくウィルの襟首を、シンが掴んで引き戻す。「どう…
ファリウスの声。 「壁に並んでいる装置を破壊しろ、徹底的に!」 シンと部屋に駆け入る。視線を下に戻す。壁――休憩所の地下にあった装置と同じだ。丸くカーブする壁全面に黒いスクリーン、その下に延々と連なるパネル、誰かを待って整然と並んでいる椅子、…
スイッチを入れたコムから、ソディックのしゃがれ声が響いた。 「解読完了! 開けるか?」 「いつでも!」 シンの返事に即答し、正面の壁が一瞬で消えた。 二人の前に、扉と同じ幅の廊下が暗く長く伸びている。銃を握り、一歩踏み込んだ。踏み込んだ数歩先ま…
「リラックス……歌でも、歌おうか?」 最後の「か?」が甲高く裏返った。無理して強がるんじゃなかった。最悪だ。 シンの微笑が、ニヤニヤ笑いに変わった。 「そういう冗談がさまになるには、あと十年は要るな。パドに教わるといい」 「いやだ。パドが喜ぶじ…
太陽が中天を極める直前、ウィルはシーサとともに森の中心点に駆け着いた。 南北を貫く白い道から、東へ分岐した細道へ。ゆるやかなカーブを曲がったところで、密な木立がぱっと途切れた。 開けた空間に、例の構造物が鎮座していた。夏の青空を突き、一直線…
部屋は鎮まりかえった。 ウィルは口を開きかけ、また閉じた。ハルのこんな気持ち、あの地図にさえ書かれていなかった。誰が見るわけでもない紙にすら書けないくらい、ハルはその気持ちを押し殺してきたんだろうか。俺にできることがあるのだろうか。いいよ、…
ハルはふうっと息を吐いて、なにを思ったか、かすかに笑った。 「自分でも驚いた。僕がこんなに臆病だったなんて……こんな小ずるいことを平気でやるなんて……でも、これが僕なんだ。その後、ウィルが竜使いになって、毎日森に入るようになって。僕に森の話を聞…
「……そんな……僕、そんなつもりは……」 ハルの口から、とつとつと言葉が漏れた。 「なんの気なしに……言って、しまった。帰ったら、エヴィーが、起きていたから。嬉しかったから。今度は、ウィルの番だって、エヴィーを、撫でて、そして、」 「そして?」 「『…
「悪いとは思ったけど、どうしても見つかりたくなかった」 「それで、それで――エヴィーに乗った、乗れたんだな」 「そう」 ハルの声に、ひととき暖かい力がこもった。 「あのときの気持ち、いまでもはっきり覚えてる。絶対に無理だと思ってたことが、ひっく…
「ハルの、誕生日か」 ハルはうなずいた。一年前は、二人とも、ウィルの誕生日だと思っていたその日。 「ウィルが騎乗試験を次ぎの日に延ばそうって言い出して、決めてしまった。僕はいやだと言ったのに。覚えてる?」 もちろんだ。翌日のハルの誕生日を待っ…
ハルと視線が咬み合う。すべての感情をしまい込んだ顔。ハルは口だけを動かした。 「何を言っているのさ」 「ハル、もういいんだ」 ウィルは、自分のこころが震えていることに気づいた。足が浮ついていた。声は上ずっていた。 ハルと自分とを結ぶ糸の束は、…
移住区の東はずれに、ビリー・ヒルが告げた木組みの家はあった。 テント群から少し離れ、玄関が移住区の外に向けて建てられている。 手近なニッガの根元で手綱を放し、シーサに待っていろと言い含めた。シーサは鼻をパクパクさせ、その場に留まった。今なら…
ウィルはランプを右手に、移住区の外を周り東へと歩いていた。 左手にはシーサの手綱。シーサはおとなしく後ろを付いてくる。ときどき首をぐっと高く伸ばすのは、欠伸がわりか。ライトはシーサの背に積んである。明るすぎるからだ。 雨は止んでいた。夜明け…
蒼白いラタの頬を眺めながら、ウィルは胸がスッと冷えるのを感じた。 身をゆだねていた暖かい空気に、寒い霧が忍び込んできたような。 それでも、腹は立たない。黒い雲も湧いてこない。蒼い光に包まれ、自分のこころはどこまでも静かだ。ただ、感じた。この…
ラタはなにも言わず、待ってくれている。子どもが隣の子につられて遊び始めるように、干草を手に取って、ひとつふたつと結び目を作り始めた。それを目で追いながら、ウィルはたまらなくなった。なにか話したい。話しかけられたい。言葉を交わしたい。どんな…
黒い世界に、黒い自分が溶けている。 どこまでが自分の内で、どこからが自分の外なのか。わからない。境の無い世界。 だったら、このままがいい。夜が明けて、明るい世界で自分の黒さを思い知るよりは、このままがいい。このままでいたい。いっそ朝が来ない…
エヴィーの小屋の方角から、レオン・セルゲイの傘音がゆっくり戻ってきた。身を起こし、その音が通り過ぎるのを待って、ウィルはもう一度ハルの地図を広げた。 ハルの名前と自分の名前の間に横たわる、たくさんの言葉をさっと目で追う。そこに答えがありそう…
テント布を叩く雨音を聞きながら、子どものころからの出来事を思い出す。 思い出なんか数かぎりなくある。自分達のテントで。学校で。マカフィ達と遊びながら。砂漠を歩きながら。いつも、いつでもハルと一緒にいた。 森の探索を始めて、別々の時間が長くな…
誰も居ない処置室で目を覚まし、ビリー・ヒルの家を出たとき、林は暗く陰っていた。ニッガの木立の上には黒い雲がかかっている。鳴き騒ぐ虫の声もしょぼしょぼと張りがない。雨が降りそうだ。 マクヴァンが切れ、抗体注入した背中がジンジン痛い。自分の全身…
マクヴァンを溶かそうとカップを手に取る。……水にフケがいくつも浮いている。 ここでそんなこと言ったら殴られるだろうか、それより相手をひどく傷つけてしまうだろうか、面倒だ目をつむって飲んじまえと思ったそのとき、「すまん」とビリー・ヒルが言って、…
「なんでもなにも、お前が生きるために要る抗体だからだ。つべこべ言うな」 「つべこべって、そういうことじゃないでしょう。あと何日かで、メルトダウンが、」 憎い敵に向かうように、ビリー・ヒルは言葉を吐き出した。 「それがどうした。知らんようだから…
移設したビリー・ヒルの家は、移住区の端にあった。壁に歩み寄り、耳をそばだてたが、中は静まり返っている。誰もいないのだろうか。玄関に向かいぐるっと壁を回り込んで、ウィルは驚いた。 家の主が、玄関先の階段に腰掛けていた。自分の脚に頬杖をつき、地…
落ちた日から、身近に感じるのはそんな人ばかりだ。思いどおりにいかなくて、思いがけないことに襲われて、自分の進む道を無くした人達。あの人の父親。レオン・セルゲイ。パドから聞いた、パルヴィスに二度と乗れなくなった竜使い。そして、騎乗試験に失敗…
シンが去った夕方、シーサの散歩を始めた。移住区からできるだけ離れ、ニッガの林の西方面を歩き流す。 ホイッスルが効くかわからない今、シーサの手綱を放すことはできなかった。シーサはそう不満そうでもない。おとなしく引かれて付いて来る。小屋にいるよ…
シールドテスト失敗の原因が、わかった。あのとき、森の中心点で、微弱ながら虚粒子の波が発生していたという。太陽の光も風も遮りはしない、ごく微かなレベルのものだが、八本のポールが生成するシールドには致命的な影響を与えた。波が干渉して、シールド…