2005-08-01から1ヶ月間の記事一覧

17.秘密#10

「他にもいろいろ話したけれど」 「何を?」 「……どうして知りたいの、ウィリアム」 「すみません。気を悪くされたなら、謝りますます」 「謝らなくていいから、なぜ知りたいかを、教えてちょうだい」 声は穏やかなままだったが、答えをはぐらかせる聞きかた…

17.秘密#9

二人の話は、ハヴェオのほうが一方的に喋り、ときおりマリーが、穏やかに短く答えているようだ。なんとなく、あまりいい話ではなさそうだ、と感じた。ハヴェオの声がだんだん高くなる。イライラした調子が伝わってきた。そしてついに、はっきりと相手を詰(…

17.秘密#8

次の日、ガランへの報告を済ませ、エヴィーの小屋の掃除と昼食を済ませてから、ウィルはその足で学校へ向かった。 ガランからは予想通り、泊まり駆けは準備を慎重に行ってから試すようにアドバイスされた。自分も、そのつもりだ。 しかしその前に、ハルの件…

17.秘密#7

ぽかんとしているウィルを残し、マカフィはさっさと帰って行った。 気まずそうに立っているハルに、事情って? と尋ねると、ハルは辞書をパタンと閉じ下を向いた。 「マカフィが話さないなら、僕からは言えない……隠したいわけじゃ、ないんだけど」 それはハ…

17.秘密#6

泊り駆けに必要な準備物をあれこれ考えながら村に帰ると、ハルとマカフィがテントの前で立ち話をしていた。 ハルが、分厚い本のページをしきりに繰っている。辞書だ。 「――お? よお竜使い、お疲れさん」 こちらに気がついたマカフィが、兄貴気取りで言って…

17.秘密#5

頭の中がガーンと鳴っている。 味がある飲み物はミードと決まっていた。こんな、地面の上を無造作に流れていく水に味がついているなんて、なにかがひっくり返った気がする。それとも、自分達の世界がもともとひっくり返っていたのか? 本当の世界は、これが…

17.秘密#4

雨が降り止んで数日たち、森は夏一色になった。 緑はますます濃く深まり、生き物達の声が森全体を揺るがし鳴っている。ジィージィー、シャワシャワ、その他言葉にも表せない様々な音が、激しい雨音よりなお騒がしく一瞬も途切れることなく続いている。 エヴ…

17.秘密#3

シーサがなかなかしゃっきり元通りにならないので、ウィルは先へ進めなかった。 シーサときたら、まだ調子が戻っていないくせに、全然違う方角へ駆け出しては派手に転んだ。その間にフィブリンの巨体がどんどん遠のいていく。さんざん手こずったあげく、ウィ…

17.秘密#2

自分の留守中に変わったことがあれば、ハルはすぐに話してくれるはずだ。しかし、昨晩はともかく今も、「実はね……」と言い出す気配が無い。こちらから切り出したものかどうか、ウィルはしばらく黙って歩き考えたが、やはり聞かずにはいられなかった。 「ハル…

17.秘密#1

真夜中の訪問者が誰か、ハルを問い詰めることができたのは、次の日の昼だった。 テントに帰り着いたウィルを、ハルはブーツを脱げだの上着を貸せだのとせわしなく世話をやいて誤魔化し、寝袋へ押し込むようにして寝かしつけてしまったのだ。質問する暇もなか…

ネタは新鮮なうちに

わたりとりの書庫へようこそ。 栞でほっとひと息 第九弾です。 いいネタが取れたので、私の感動が薄れないうちに。 地方のとある水族館で、最高の文章を見つけました。 簡潔・率直にして美味。みなさまも ご堪能あれ。 なにげない解説も、やけに旨い 五感に…

転載・・・滅却

わたりとりの書庫へようこそ。 栞でほっとひと息 第八弾です。 今回は、転載機能について、「現在」の考えをつらつらと。 私はブログ開設時から、全ての記事を転載不可に設定しています。 ブログを立ち上げ、最初に記事を投稿しようとしたとき、転載という設…

16.雨の日々#15

ハルは、カピタルの日々の出来事に、とても詳しかった。誰がどんなことを考えているかまで知っているように、ウィルには見えた。仕事で大人達の話し相手になっているから、だけでなく、そういう特別な力があるように思えた。 成人の日ガランは、ハルに「村の…

16.雨の日々#14

ウィルは、ぶるん、と首を振った。 どうしてこんなことを、考えたのか。誇り高い竜使いたちが、相手のいない所で悪口を言い合うなんて、あるわけないじゃないか。 そのとき、ロックのスピードが、ぐんと落ちた。 はっと意識を戻す。興奮して立っていたはずの…

16.雨の日々#13

簡単な食事をし水を飲んだ後、すぐ帰路についた。 ロックの足取りは、あいかわらず快調だ。驚異のスタミナで、一定のスピードを保っている。軽快というには、荒っぽすぎるけれど。 自分は軽すぎるのかもしれないな、とウィルは思い始めていた。マカフィくら…

16.雨の日々#12

二・三リール進んで、後ろからバキバキという音がするので、振り返って驚いた。ロックが、大人の背丈ほどの木を踏みしだき、森の中まで追ってきたのだ。まだ繊細な幼木や下草が、巨体に弾かれ折れ曲がり、砕かれている。ウィルは慌てて命令した。 「ロック、…

16.雨の日々#11

ウィルはときどき休憩を取ろうとしたが、うまくいかなった。 手綱を引いても、ロックはぶるぶる首を振り、ガンとして脚を止めない。止まったら最後、二度と走らせてくれないとでも思っているのか。結局、一度も休憩をとらないまま空想太陽は南天を昇り、午後…

16.雨の日々#10

「ロックダム! ローック! 落ち着け!」 無理だ。 解き放たれたパルヴィス竜は、あらんかぎりの力で驀進(ばくしん)した。ウィルの体を無茶苦茶に揺さぶり、猛り狂って突進して行く。 右手に続くカピタルの柵の向こうから、村人達の叫び声が聞こえてくる。…

16.雨の日々#9

「そうだね、早く済ませなきゃ。ロックの機嫌がいいときなんて、そうないんだから」 持参した桶をドンと置き、ハルが言った。 ロックが、桶に首を伸ばし、餌を食べ始めた。ハルがその口元に控え、残り三人で、鞍の準備にとりかかる。 できるだけ早く作って欲…

16.雨の日々#8

「あそこで遊ぶからだよ。シーサったら、大きい竜たちが穴に座ろうとすると、そのお腹の下をくぐって走るんだ。はじめは偶然かと思ったけど、わざとだよ、あれ」 危ないなあ!と驚くウィルを、シーサは澄ました顔で見上げている。 それから二人(と、シーサ…

16.雨の日々#7

数日後、完成したシールド・ポールを取りに来いという連絡が、ソディックから入った。 勇んで訪ねると、彼のテントは物であふれかえり、家の主が座る場所すら無い。雨続きで、外に出しておいた荷物の山を、中へ入れたのだ。 「どこで寝るんですか」 思わず聞…

16.雨の日々#6

ハルは続けた。 「僕、グレズリーさんのところで、力仕事ができないぶん、来る人の話し相手をしているんだ。いろいろな話しを聞くよ。僕って、話しやすいのかな? なかには、つまりそのう、人の悪口とか、愚痴とかを言う人もいる……」 初耳だった。 カピタル…

16.雨の日々#5

「背の話? 伸びたよ、ウィルは。誕生日のちょっと前には、僕を追い越してた。気づいてなかったの」 「意識してなかったな。けど先生に言われて、思いだした。俺、なかなか伸びなくて、ハルのほうが早くてさ、今だから言うけど、前はけっこう気にしてた」 へ…

16.雨の日々#4

すっかり冷えきってテントに入ると、ハルが暖かいランプの光の下に、湯気のたつミードのカップを並べていた。 「おかえり。すっかり濡れちゃったね」 ウィルは苦笑しながら、重い上着を脱いでフックに吊るし、ハルが放ってよこしたタオルで髪を拭いた。 「結…

16.雨の日々#3

「別に変わらないです。さすがに取っ組み合いはしないけど」 正直な返事に、困った子ねえ、というふうにマリーが顔を雲らせた。 ウィルは首をすくめた。上着を濡らし染み込んだ雨が、竜皮の裏打を湿らせ、悪寒がする。思いがけないラタの話題に、マリーと久…

16.雨の日々#2

「以前はそれで良かったでしょうけど」 「今だって同じですよ」 しかしマリーは首をすこし傾け、照れくさそうに視線をそらすウィルを見つめると、言った。 「でも、そうね。これがあなたたちの成人の証だというなら、喜んで受け止めなければいけませんね。そ…

16.雨の日々#1

森は、雨季に入った。 安息日の翌日から天気が崩れ、雨雲が空を覆った。 昨年の今ごろも、こんな雨の日が続いた。夏の熱気は、連日の雨でしばし冷め、過ごしやすい日が続く。森の草木も、水をたっぷり含んでみずみずしい。 しかし、探索を続けたいウィルには…

お客様は・・・

わたりとりの書庫へようこそ。 栞でほっとひと息 第七弾です。 今回は、仕事の話です。ほっとできないかも。 いくつかの職場と職種とを経験してきましたが、いまだに馴染めない言葉があります。 「お客様は神様です」 てやつです。(某大物歌手の言葉?) 正…