2005-07-01から1ヶ月間の記事一覧

15.空へ #12

大丈夫だ、話したほうがいいと、ウィルは直感した。 自分が感じたことを、そのまま話した。カピタルが、みすぼらしく見えたと。貧しい、色あせた村に見えたと――けれど、老人ばかりの村だとは、さすがに言えなかった。口に出してはいけない気がした。 「――急…

15.空へ #11

その通りだ。竜に乗って走る、という感覚は、自分しか知らない。その自分だって、数ヶ月前まで、みんなと変わらなかった。レオン・セルゲイを除いては。 ウィルは改めて、目を砂漠へと向けた。どこまでも続く、黄色い大地へと。 森は、確かに広い。しかし、…

15.空へ #10

マカフィだ。大人達は、彼なら必ず試験にパスすると思ったのだ。ガランもそう判断した。そこでグレズリーに、試験に先立ち、新しい竜を孵すよう指示したのだろう。 しかし自分には、エヴィーとシーサがいる。 「先生、気持ちはわかるけど……俺、新しい竜をも…

15.空へ #9

ソディックは、数値の精度を上げたい、と言い置き、計測と計算に没頭しはじめた。 ウィルはここぞとばかり、レンズ付きの器具を借りて目に当てた。森の姿、とくに、東方面と川向こうの様子を見ておきたい。 まずはサムのルート起点に狙いを定める。バーキン…

15.空へ #8

何のために? と問い返してきたネイシャンに、東の断層を指差し、あそこを越えられたらと説明すると、彼女はケラケラ笑いだした。 「今日は無理ね。風の方角が全然違うから。でも、行けたとしても、帰りはどうするの。一回しか飛べないのよ。歩いて帰る? 三…

15.空へ #7

森への入り口は、東西に伸びるカピタルの中間あたり。明るい薄緑の地帯が、カピタルに隣接している。あそこが、ミード草の密生地帯だろう。 ミード草のトンネルをくぐった先が、ニッガの林。濃い緑の地帯が、大きく広がっている。目で追うと、視線が真下から…

15.空へ #6

木々や枝葉の細かな違いは、すぐに見分けがつかなくなり、植物の雑多な色は、いつしか大きな濃緑色のグラデーションに吸収されてしまった。 三人とも、一言も発しなかった。 ただ夢中で、移り変わっていく風景を、くい入るように見つめていた。 昇るほどに、…

15.空へ #5

「僕が一番じゃないよ。たしか、トニーさんがそう言って……」 ハルのおとなしい抗議など、ラタには届かない。 「とにかく、だめなものは、だめ!」 「まるで母親気取りだな」 ウィルが茶化すと、彼女はウィルに人差し指を突きつけた。 「なに言ってるのよ! …

15.空へ #4

ネイシャンも、親子を眺め、ため息をついた。 「あら、泣いちゃったのか……。もし、何度でも飛ばせたなら、子供達を乗せてあげたかった。ガランもそう言ったのよ。この森で生きていく子供達に、空からの眺めを見せてやりたいって。でも、しかたないわね……」 …

15.空へ #3

隣のソディックに、軽く頭を下げる。彼は、会釈も返さずに、「荷物を」と短く言うと、自分のテントへ向かった。計測器を取りに行くんでしょう、とネイシャンが説明した。 金属筒の横には、大きな籠が置かれていた。太い針金を編んで組んだ型に、竜の皮を張っ…

15.空へ #2

子供達は、大はしゃぎだ。あれ、なあに? お空? 飛ぶの? と質問する声が、ここまで聞こえてくる。じっとしていられないのだろう、わぁーっと叫んで、駈けずり回る子もいる。男の子も、女の子も。まるでシーサだ。 そのうちのひとつが、「ラタお姉ちゃん!…

15.空へ #1

次の朝、まだ明けきらぬ空のもと、ウィルとハルが居住区の西の端に到着したとき、すでに事は始まっていた。 柵の外に広がる砂漠に、カピタルじゅうの大人と子供達が集まり、円陣を描いている。 それでも囲めないほど、大きな大きな物が――そうだ、ネイシャン…

パチパチしたい

わたりとりの書庫へようこそ。 栞でほっとひと息 第六弾です。 今回は、「使ってくださる皆様の声を広く反映し、充実したサービスの実現を目指している」と宣言されている Y!様への、「提案」です。 ※最近、栞が暴走ぎみです。今回もです。けけけ。 yahoo!…

14.息子達 #12

どこからか、シールド・ポールって? という声が飛んだ。ガランが、声が飛んだほうへ顔を向けた。 「前の新月祭で、ウィリアムが話していたはずだが。詳しくは、ハヴェオから後ほど説明しよう。……ともかく、我らは森の『正確な』姿を、知る必要があるのだ。…

14.息子達 #11

バーキン老人が、まあまあ、とセルゲイの膝を軽く叩いた。 「わしが悪かった、軽率だったよ、レオン。ウィリアム、親の跡を継ぐ息子もいるし、継がない息子もいる。人それぞれさ。ほれ、ハヴェオのように、継ぐまでに時間がかかる者も、いるしな」 「そうか…

14.息子達 #10

はあ? と思わず口を開けたウィルに、バーキン老人が笑った。 「お前さんに、三つで終わりだと言ったら、油断して三つすら覚えないじゃろ。親心(おやごころ)さ。なあ、レオン」 セルゲイは、またしてもフンと鼻を鳴らした。レオン、と下の名を気安く呼ばれ…

14.息子達 #9

ウィルはそのまま、マカフィのチームの輪に入った。 みな、若くて陽気な連中ばかりだ。小屋はどうかと聞かれ、「エヴィーも気に入ったみたいです。ありがとう」と答えると、チーム全員からバンバン背中を叩かれた。……マカフィの、人の背中を叩く癖は、このチ…

14.息子達 #8

「レオン・セルゲイって、竜を降りて、もう十年は経つんじゃなかったか? そりゃあ、竜使いの任務は厳しいと知ってる。脚が悪いことも知ってる。けどよ、あんな態度はねえよな。竜使いってだけで、なんでも許されるわけじゃない。女子供だって、どんな年寄り…

14.息子達 #7

ウィルはエヴィーにまたがった。休憩を取る気もしない。 今日はもう、帰ろう……。 足並みをエヴィーに任せ、ニッガの林をゆるゆると流しながら、ウィルはぼんやり考えた。 サムが森を探索していた期間は、二十日にも満たない。 その日数を追い越し、自分はも…

14.息子達 #6

――しかし、そううまく事は運ばなかった。 めぼしい場所が見つからないまま、太陽が西の空へ三十度、傾いてしまったのだ。 そろそろ戻らないと、村に帰り着く前に日が暮れてしまう。真っ暗になった森を走る自信はなかった。惜しいけれど、危険の少ない明るい…

14.息子達 #5

もう一組、親子連れを発見した。プラリだ。 大河へ向かう雑木林で、三日に一度は見かけるプラリ。いつも尻尾で枝にぶら下がり、プラプラ揺れているのだが、ある日、プラプラが七つに増えていて、ウィルは仰天した。 端っこのプラプラはいつものプラリで、残…

14.息子達 #4

シーサが誕生してから、探索の遅れを取り戻そうと、午後遅くまで河をさかのぼる日が続いていた。 森の南に位置しているカピタルから真っ直ぐ北上すると、バーキン草原へ、そこから北西へ進むと、東から西へ流れる大河にぶちあたる。進路を東へ取り、大河の上…

14.息子達 #3

シーサは小屋の入り口へ突っ込んで行った、かと思うとすごいスピードで出てきて、小屋の周りをグルグル走りだした。おもいきり走るのが、嬉しくてしょうがないというふうに。エヴィーが、なにごとかと首だけ出した窓の下を、何度も何度もビュンビュン駆け抜…

14.息子達 #2

「小屋を作ってる間だって、休憩のたびに様子を見に来てさ。見るだけならいいぜ。そのたんびに、俺を捕まえて、はやく結婚しろだの、子供が欲しくないかだの……」 隣で聞いたハルが、ミードを吹きだしむせかえった。 「げほっ、……マカフィ、それ、気が早すぎ…

14.息子達 #1

とうとうエヴィーの小屋が完成した。 二十日あまりの突貫作業のわりに、壁も屋根も、隙間なく丁寧に仕上がった。床は暖かい土の上に、干草をいっぱい敷き詰めた。エヴィーがラクに出入りできる高い天井、壁面ひとつが全開する出入り口に、風取り用の大きな窓…

まさかのミステリー!

わたりとりの書庫へようこそ。 栞でほっとひと息 第五弾です。 今回は、ある日このブログに突然おこった、「まさかのミステリー!」顛末記。 「砂と卵」連載中のある日のこと。 実はこの頃、訪問者が、一時的に増えていました。 前回の「栞4」にトラックバ…

13.純血 #9

ウィルは、ふやけた人差し指に息を吹きかけながら、ぼやいた。 「食われるかと思ったよ……」 「まさか」 グレズリーは笑い飛ばし、二本目の哺乳瓶に乳を詰めだした。見ると、瓶は全部で五本ある。――なるほど、とウィルは納得した。産まれてすぐにこれだけ飲む…

13.純血 #8

ウィルは、彼の言葉を確かめるように、ひとり呟いた。 「大きさで決まるわけじゃない……じゃあ、ブラウが一番強い、とは、限らないのか……森で一番強い生き物って、なんなんだろう」 ハルも首をかしげた。 「一番強い生き物か……簡単には、決められないんじゃな…

13.純血 #7

「考えてある。産まれたら、話すよ」 ウィルは言って、にやっと笑った。たまには、自分だって内緒ごとをつくってみたい。 それからは、三人息をひそめ、卵が孵るときを待った。 どれほど時がたっただろう。ウィルには、わからなかった。卵はゆっくり、けれど…

13.純血 #6

大河が北へのルートを塞いでいる、という報告に、ガランからは、とりあえず日帰りで行ける所まで、上流へ逆のぼるよう言われていた。日の長い時期だから、その気になれば、午後遅くまで探索を続けることもできる。 しかしウィルは、まだ日が高いうちから、エ…