14.息子達 #1

 とうとうエヴィーの小屋が完成した。
 二十日あまりの突貫作業のわりに、壁も屋根も、隙間なく丁寧に仕上がった。床は暖かい土の上に、干草をいっぱい敷き詰めた。エヴィーがラクに出入りできる高い天井、壁面ひとつが全開する出入り口に、風取り用の大きな窓。予想にたがわず、ウィルたちのテントなどはるかに凌ぐ大きさになった。威風堂々たる小屋だ。
 仕上がった日の夕方は、ちょっとしたお祝いになった。
 ウィルとハルで、特別に許可してもらった「甘い」ミードを大缶たっぷり用意して、マカフィ達にふるまったのだ。せめても御礼に。みんなが最後の片づけをしている間、テントの脇で火を焚いて、ミードを暖める。甘い香りが伝わったのか、向こうから、真っ黒に日焼けしたマカフィが「やあっほ!」と歓声を上げた。
 すっかり片づけが済んだところで、ウィルがエヴィーを、小屋へと導いた。狭い場所を嫌うパルヴィスが、大きく作ったとはいえ、天井のある小屋に馴染んでくれるかどうか――だが、心配は無用だった。エヴィーは、先に入ったハルに「おいで」と促されると、素直に小屋の中に足を踏み入れ、すぐ新しい家に落ち着いてくれた。
 一同がほっとひと安心した後、お楽しみのミードで乾杯となった。
「よーし、じゃあ、新しい竜使いに乾杯! そして、ウィルをマスターに選んだエヴィーに乾杯!」
 マカフィが音頭をとり、みなでミードのカップをぶつけ合った。
 今日のミードは、ずいぶん酒気が強い。大の大人が飲むミードは、ただ甘いだけでは物足りないものだ。ハルがそのあたりをよく承知していて、特別に手配したらしかった。大缶いっぱいのミードは、マカフィと七人の大人達に次々とおかわりされ、ぐんぐん減っていった。
 陽が傾き、あたりが薄暗くなってきたころ、酔って騒ぐ男達の声に、甲高い声が混じっていることに気が付いた。
 えっ?とウィルが振り返ると、いつのまにか、エマおぼさんが割り込んでいる。ちゃっかり持参したカップに、手酌でミードを注いでいた。
 目が合うと、おばさんは悪びれる様子も無くカップを掲げた。
「こんばんは、ウィリアム。お相伴(しょうばん)させてもらうよ!」
 ウィルは、笑ってうなずいた。本当なら、お騒がせしましたと、こちらから誘っておくべきだったのかもしれない。向こうから出てきてくれて、手間が省けた。
 おばさんは、一番年長の村人をつかまえて、ミードを得意そうにかざし、何かを長々と喋りだした。どうやら、おばさの息子――新月祭で表彰されたネッド・エマ――が、いかに苦労してこの「甘い」味を発見したか、とくとくと語っているらしい。
 と、袖を横から突つかれた。見れば、マカフィが、不満そうに口を曲げている。
「ウィル、なんであいつを呼ぶんだよ。ミードが不味(まず)くなるぜ」
 あいつというのは、エマおばさんのことらしい。
 ウィルは首を振った。
「呼んでない。勝手に呼ばれたんだ。仕方ないだろ、これだけ騒いでたら」
「俺、苦手なんだよなあ」
 マカフィは言って、おばさんに背を向けた。