2006-02-01から1ヶ月間の記事一覧

29.震えと怖れ#14

「別におかしくないだろ。ただその、ちょっと、考えすぎだとは思う」 「姉さんと同じこと、言うのね」 ラタはまた顔を覆った。 「考えようと思って考えてるわけじゃない。やめられないの。ハルのことを心配したり、キディのことを心配したりするのだってそう…

29.震えと怖れ#13

ラタは木々の幹を片手で伝いながらふらふら歩き、ひときわ大きなニッガの根元に座り込んでしまった。ウィルは気が気ではない。置いて帰るわけにはいかない。送るから帰ろうと言っても、ラタはうんと言わなかった。 「まだ帰りたくない。考えたいことがあるか…

29.震えと怖れ#12

「俺、帰ります」 ライトが入った袋を掴み、立ち上がった。 「これ、ハヴェオさんに届ければいいんですね? じゃあまた」 ソディックが片手を上げたのもろくに見ず、シーサを促し柵の外へ出た。 思いきり走りたい。シーサの背に飛び乗り、駆け出した。鐙を鳴…

29.震えと怖れ#11

「まさか。歳を取った竜ならともかく、シーサはまだ、」 「若い竜も危険。体が小さいほど筋肉量より表皮面積比率が高い、熱が奪われやすい、つまり体温が下がりやすい。理解可能か?」 よくわからない。最後のフレーズ、久しぶりに聞いた。なんて言ってる場…

29.震えと怖れ#10

厳しい寒さが、少しだけ緩んだ。二十日ぶりだ。 と同時に、シーサの準備が整った。体はひとまわり大きくなり、華奢なくらい細かった脚に頼もしい筋肉が付いた。ニッガが調整してくれた鞍と鐙(あぶみ)を乗せ、ウィルは久しぶりに森に入った。目的地はソディ…

29.震えと怖れ#9

「……それを言わないと、俺、竜使い失格でしょうか。もう乗れないでしょうか。シーサにも?」 震えがかすかに戻ってきた。自分でもどうしてだかわからない、どうしてもこれだけは胸にしまっておきたい、話したくない。 セルゲイは首を振った。 「竜はそんな単…

29.震えと怖れ#8

「ああこら、止めろ! わしがいま聞きたいのは、そんなことじゃない」 セルゲイが割って入った。頭を掻いている。 入ってきたときよりずっと穏やかな声で、彼はハルに外してくれと言った。ハルは黙って出て行った。 小屋に静けさが戻った。ウィルの肩を小突…

29.震えと怖れ#7

「そういえば、フィブリンは? もう歳だもんな。冬は越せそうか?」 明るい話題に変えたつもりだった。ところがハルの顔が一気に曇った。 「ううん、実は……言おうかどうしようか迷ったんだけど……三日前、眠りについたんだ。もう目を覚まさないと思う」 「え…

29.震えと怖れ#6

ハヴェオを見送り視線を戻すと、ガランが笑っていた。 「なかなかいい理由を見つけたね。それなら彼もみなも納得する」 顔が熱くなった。なんだか見透かされている気がした。両膝を揃え固まっていると、ガランは話題を変えた。ルロウの竜使いはどんな人間だ…

29.震えと怖れ#5

ことさら寒い日が続いた。積もるほどではないが、雪が降ったりやんだりを交互に繰り返す日々。土の下に氷が張り、踏みしめるとザクザク音がする。去年もこんな日が二十日くらい続いた。真冬の辛抱の時。あまりの寒さに探索はしばらく休止した。竜の調子が出…

29.震えと怖れ#4

ソディックの脚がぴたりと止まった。が、またすぐ揺れだした。 「全滅する割合はせいぜい九割と計算する。千が百になることはあっても二はありえない。さらにいえばルロウはガランが招いたようなもの。正確には一だ。この誤差はなんだ?」 考えた。ウィルは…

29.震えと怖れ#3

ソディックの笑みはどんどん大きくなった。手を振り、待ったを掛けた。 「わかった。ひとつ答えが出た。首都の科学者達は知っていた。森の位置、大きさ。『空を飛ぶ乗り物』もあった。動かせた。だが動かさなかった」 「なぜ!」 思わず怒鳴っていた。ソディ…

29.震えと怖れ#2

やれやれとため息をつき、椅子を寄せて座った。彼の前では、やれやれという顔もため息も平気で出せる。出したところで気を悪くする相手じゃないから。 ソディックは話し始めた。 「ガランの話のうち、おかしな点は二つ。一つ目、首都の科学者がこの森を残し…

29.震えと怖れ#1

空から白い雪がひらひら舞い降る寒い午後、ウィルは久しぶりに休憩所を訪れた。 玄関扉を開け廊下に入り、ほっと息をつく。休憩所は暖かく、凍えた耳たぶや鼻先がじんじん熱く感じる。手袋をはずし両手をこすり合わせながら、ソディックを探した。 一階には…

激震 走る

2005/12/18 真夜中 いったいどうしたんだ 異文化を理解したいと思っていた 私なら理解できると思っていた それは思い上がりだった いや 違う 私は今 強烈に向こうに惹かれている 憧れ 羨望 嫉妬 ああ心が引き裂かれてゆく >内省によってではなく、氾濫する…

28.スタミナ比べ#12

ウィルはぼーっと突っ立っていた。やたら寒い、体が震える、膝ががくがくする。 こっちをひょいと見やったパドが真面目くさった顔で言った。 「そんなに怖いなら、二度と同じ真似はするなよ。後悔したって竜は帰ってこないんだぜ。――ま、俺にとっては都合が…

28.スタミナ比べ#11

後ろから竜の鳴き声が聞こえた。パドが追って来ている。ウィルは鐙を鳴らし加速した。白い道を横ぎり、さらに続く林を減速せずに一直線に走る。パドが後ろからわめいている。待て、やめろ、いいかげんしろ――いいかげんにして欲しいのはこっちだ。なんで追っ…

28.スタミナ比べ#10

「無理に決まってる。そんな、絶対に……」 「よく考えろ。純血を飼い殺しにする気か? それともその子をか? どっちもひでえ話だ。乗り手に捨てられたパルヴィスがどんなに惨めか、わかってるはずだな? 誰が乗ったっていいじゃねえか、乗り手がカピタル人だ…

28.スタミナ比べ#9

「綺麗?」 バーキン老人が作った服のことか、それともまさか――? 気味悪い想いで視線をあさっての方向へそらす。パドが指を振った。 「こら待て、勘違いするな。竜のことに決まってるだろ」 「……ああ、ロックのことか」 ほっと肩を落とし、おかしくて笑い出…

28.スタミナ比べ#8

南に向かい駆ける。と、背後から騒がしい音が聞こえてきた。振り返ってぎょっとした。パドが食べかけの鍋を抱え、竜に乗って追いかけて来たのだ。 「なんだよ、せっかちだな。食い終わるまで待ってくれたっていいだろう」 「付いてくるなよ! 俺はひとりがい…

28.スタミナ比べ#7

「……あんた……なんでここを使ってるんだよ……」 怒りで声がろくに出ない。男はけらけら笑っている。 「いやー、いいものを用意してくれたな。でかした。砂漠で野宿は慣れてるがここは勝手が違うからな。助かったぞ。食料までストックしてあるなんてよ、俺は涙…

28.スタミナ比べ#6

なにが卑怯なもんか。いい気味だ。「ロック、行くぞ」と促し、振り返らずに上へ駆けた。まさか取り返しに来るとも思わないが、さっさと片付けてしまおう。 丘を登りきったところが第四ポイントだった。平らに広がる台地、数十リール先から緑が砂の地に切り替…

28.スタミナ比べ#5

ウィルは銃を構えた。鏑弾を込めてある。ロックの耳に栓をし、視界の斜め上を走り続ける奴を狙う。 相手の竜のほうがスタミナが残っている。当然だ、丸一夜休憩したばかりなんだから。まともに勝負すれば負ける、長引くほど不利になる、遠慮してる場合じゃな…

28.スタミナ比べ#4

朝陽がどんどん昇って来た。黒く沈んでいた丘と林がどんどん色を取り戻しはじめる。空気はいっそう冴え、凍るように冷たい。低地で、鳥が鳴き声を交わしている。空気を裂くように鋭く尾を引く鳴き声が森じゅうに響き渡る。 ライトを消して袋にしまい、代わり…

28.スタミナ比べ#3

東北に向かい走る。ゆるやかに起伏を繰り返し高まってゆく丘をライトが照らす。ロックは快調だ。このままいけば朝がたには宿泊テントに着く。どんどん行こう。 東から吹き降ろしてくる風で耳がちぎれそうだ。袋から布を取りだし、口鼻と耳を覆って巻いた。 …

28.スタミナ比べ#2

次から次へと黒い幹が強烈な光に浮かび上がり、脇へ流れ、背後の闇に溶けてゆく。秋ぐちの、あの百万個の鈴をいっせいに振るような音色も、鳥の声も、獣の声もしない。森はシンと静かだ。下草を掻き分けてゆく音とロックの足音だけが響き続ける。 なにもかも…

28.スタミナ比べ#1

ロックダムと出発した。すでに陽は沈んでいる。 ミード草のトンネルは真っ暗だ。ライトを点ける。強烈な光が向こうまで突き抜けた。ハルが即席で作ってくれた布製のライト・ホルダーをロックの首に巻きつけ、ライトを固定した。 ハルと、ロックのただならぬ…

大家殿、提言します。

わたりとりの書庫へようこそ。 栞でほっとひと息 第二十三弾です。 パチパチボタンに続く、妄想ボタン第二弾の話。 Yahoo!ブログで一番いらない、というか危険すぎるのでとっとと撤去して欲しい機能「転載ボタン」。 私は断固撤去して欲しいのですが、便利…