28.スタミナ比べ#4

 朝陽がどんどん昇って来た。黒く沈んでいた丘と林がどんどん色を取り戻しはじめる。空気はいっそう冴え、凍るように冷たい。低地で、鳥が鳴き声を交わしている。空気を裂くように鋭く尾を引く鳴き声が森じゅうに響き渡る。
 ライトを消して袋にしまい、代わりにポール探知機をホルダーに入れた。緑の光点まで、あと千リールほどか。視界が開ければ見える距離だが、林の陰が邪魔をする。ウィルは迷わずロックの腹を力強く蹴った。走れるだけ走れ! どれだけ追い上げても、追いつけなければ意味が無い!
 ロックがグンと加速した。景色が倍の速さで流れ出す。耳元で風が唸りを上げる。進路は東北東。第四地点まであと二万リールを切った、点在する小さな林をひとつ過ぎ、ふたつ過ぎたそのとき――見つけた!
 あの巨漢の竜使いだ。こちらに尻を見せ、丘を東へ登って行く。獲物を捉えたロックがさらに加速した。間合いがじりじりと縮まってゆく。いいぞ、そのまま捕まえろ!
 腰を浮かせたウィルに反応し、ロックが吼える。ルロウの竜使いが振りかえった。ヒューッと口笛を吹き、こっちに手を振った。ふざけた奴だ。
 男は声が届くほどの距離まで追い上げたウィルに、例によって馴れ馴れしい口のききかたで怒鳴って来た。
「よーう、何しに来た、小僧?」
「盗んだポールを返せ、それは俺達の物だ!」
 怒鳴り返すと、男は細長い巾着袋を右手に、がっはっは、と品の無い笑いを返した。
「これのことか? 細かいこと言うな。誰が埋めたっていいじゃねえか、ちゃんと仕事さえ果たせばよう? 了見の狭い奴だ。竜使いはもっとドーンと構えにゃあ。そんな小せえ男は、竜に嫌われっぞ!」
「黙れ! それは俺の仕事だ、返せ!」
 男はぐるっと首を回し、ウィルの形相をつくづく見て、空いた左手でぼりぼり首筋を掻いた。
「弱ったね。俺だってリーダーの命令を破るわけにはいかんさ。しゃあない、小僧、欲しいなら追いついて取り返すんだな、恨むなよ」
 言って、ほいっと掛け声をかけた。男の竜が加速する。みるみる引き離される。
「ロック、追え!」
 あったり前だと言いたげにロックが吼える。ドンッと体が後ろに引かれた。ダッシュ態勢に入った。追い上げ、相手の竜の尻尾が目前に迫る。男がポールが入った袋を高々と突き上げた。「そうこなくっちゃあな! ほい、まだまだ!」
 さらに加速した相手の竜が、じりっじりっと間合いを空け始めた。引き離される。ロックのスピードはもう限界だ。あとは互いのスタミナがどこまで保つか。ウィルは頭を回転させた。自分達は今、真西へ向かい、丘の斜面を直角に登り続けている。ロックの鼻息がみるみる荒くなる。スタミナを急激に消耗してる。このまま行けば第四ポイント、あいつが止まるのが先か、こっちが止まるのが先か、いや待てよ――勝負の付けかたは他にもあるはずだ――
 男が振りかえった。笑っている。余裕の表情。
「まだまだ、小僧!」
「小僧って呼ぶな!」
 カッとした。と同時に閃いた。