2006-01-01から1ヶ月間の記事一覧

27.始動#14

それから数日間、シーサの調教がてらニッガの林とバーキン草原をぐるぐる巡る日が続いた。 シーサは気力だけは満々だが、体力はまだまだ不充分だとわかった。素晴らしい速さで駆け続けたかと思えば、急にストンと座り込んで半日動かなかったりした。バルワ大…

27.始動#13

ルロウの移住開始の話はカピタルじゅうに広まっていた。夕食の席で、ハルがそう教えてくれた。境界線を見張る村人たちの感想はこうだという。あいつらのほうが後から来たくせに、先に森に入るってどういうことだ? どこに住む気だろう? 俺達、ぐずぐずして…

27.始動#12

「歩いて行かなきゃ、どうやって行くんだ? ああ、そうか――こっちはな、お前達の所とは事情が違うんだ。それはそうと、お前、往きは気違いじみた速さだったくせに、帰りはずいぶんゆっくりじゃないか」 「往き? 見てたのか」 「見てたさ。全員で見てた。子…

27.始動#11

カクン、と減速した。ドッドットットットトト……と十歩もかけずに、シーサは止まった。止まりきったところで、誇らしげに嘶(いなな)いた。できたよ!と言いたげに。 「と、止まった……シーサ……えらい、でかした!」 こんなにうまくいくなんて。嬉しくて、シ…

27.始動#10

よっと起き上がり、デコボコの木へ向かった。後からシーサが付いて来る。小屋に入り、ストックしてあった食料とミードを引っ張り出した。携帯コンロでミードを沸かし、喉に流し込む。寒風のなか走り続けて冷えきった全身に、とろりとした熱さが伝わってゆく…

27.始動#9

叫んで息を止めた。遠く離れていたデコボコの木が正面にあった。 疾風の勢いで枝の下を駆け抜け、シーサは驀送(ばくそう)し続ける。まずい! 「ストップ!止まれ!」 手綱を引く。シーサはきかない。ホイッスルを鳴らし首筋を叩く。全然駄目だ。このままじ…

27.始動#8

次の瞬間。 衝撃が襲った。 体ごと鞍から弾き飛ばされかけた。 万全の体制を崩したのは、予想をはるかに越えたシーサの跳躍力。シーサの力はすべて前方へに集中し、爆発的な加速となってウィルの体を大きくのけぞらせた。 震動はまだほんの五・六度、ならば…

27.始動#7

空は快晴。ハル、ニッガにレオン・セルゲイ、グレズリー、家がほど近いラタとアリータまで顔を揃えた。みんなにかわるがわる背を撫でられ、頼むぞ、楽しみね、と声を掛けられ、シーサは上機嫌。といっても、いつもシーサは上機嫌だけれど。 さあ、いよいよ、…

27.始動#6

ミード草原が焼き払われ、ルロウの北側とカピタルの東端には大穴が開いた。灰が積もる焼け跡の向こうに、ニッガの林が見える。ルロウ人が盛んに森に出入りしだしたらしい。またニッガの大木を数本、運び出していたという噂も聞こえてきた。 あれ以来、カピタ…

27.始動#5

奥へ走ろうとしたウィルの腕を、誰かが捕まえた。ビリー・ヒルだ。真っ赤に充血した目で怒鳴った。 「馬鹿、死にたいのか!」 「ラタがいないんです。探してきます!」 「いいからお前は笛を鳴らせ! 俺が行って来る――」 「ウィール! 笛を! 見えないんだ――…

27.始動#4

手当たり次第にザクザク刈り落としていく。「根元から切れ」と伝言がリレーされてきた。自分達より草丈が高いものを根元から? だが文句を言ってる場合じゃない、ハルと二人、腰をかがめ、根を掘り起こすようにして刈った。こんな調子で間に合うんだろうかと…

27.始動#3

ウィル!と声が飛んできた。ハルだ。柵に張り付いている大人達から離れ駆け寄ってきた。 「なんなんだ? あいつら、なんであんなこと!」 怒鳴るように尋ねる。ハルは首を振った。 「わからない。騒ぎに気付いたときにはもう遅かったんだ。僕達の目の前で、…

27.始動#2

なぜだろう? 満月祭の企みは失敗したけれど、ハヴェオの立場が悪くなったようには見えない。ガランは変わらず彼を補佐役に置いているのに――とそこまで考えて、思い当たった。自分達のテントでハヴェオとやりあったことを。ハヴェオがサムを追い詰めたことを…

27.始動#1

シールド・ポールが奪われた日から、ルロウとカピタルの境界線を見張る人数が倍になった。ニュースを聞いたハヴェオが提案したのだ。 正確な位置にポールがセットされるならば構わない、事を荒立てたくない、と言ったガランに、ハヴェオは猛然とくってかかっ…

うまい美味い旨い記事

わたりとりの書庫へようこそ。 栞でほっとひと息 第二十二弾です。 話題が旬なうちに、もうひとつ書いとこう。 前記事「わたしまけましたわ」で、勢甲蟹(ズワイガニの雌)は美味い、と書きました。 >紅白に輝く濃厚なミソ、口の中でぷちぷち弾ける卵がたま…

わたしまけましたわ

わたりとりの書庫へようこそ。 栞で今度こそほっとひと息 第二十一弾です。 今回は、あの賭けの行方(ゆくえ) 栞の第二弾(これまた長い記事なので、リンク引用は省略)で書いた「賭け」。 2005年12月31日、このブログの訪問者が○○○人を越さなかったら、 同…

26.ポールの行方#15

昼前に休憩所に着きソディックの姿を探した。どの部屋にも見あたらない。ひょっとしてとニ階に上ってみると、彼はドーム天井の部屋でベッドの一つに寝転んでいた。扉が開く音に身を起こし、眼鏡をかけ言った。 「遅かった」 「すみません、昨日は安息日だっ…

26.ポールの行方#14

ソディックの大荷物を届けに、休憩所とバーキン草原を往復する日が四日続いた。 最後の荷物を運び終えた昼、ソディックは七日後にもう一度来るように言った。三本のポールを渡すから、と。それを聞いてすぐに引き返しバーキン草原へ戻ると、ハル達は撤収した…

26.ポールの行方#13

「食料? エヴィーを!?」 心臓がぐっと縮んだ気がした。まさか、と言い返そうとして言葉を呑み込んだ。嘘でも冗談でもない、今まで見聞きしてきたことを考え合わせれば、充分ありうる話だと悟った。 「まだ決まったわけじゃないよ。そうなるかもしれないっ…

26.ポールの行方#12

バーキン草原の北を蛇行するバルワ大河。そこへ続く東西のルート。サムが見つけた上流へのルートを示すと、セルゲイが軽く唸った。三つの支流を超えて白い道に出て、西へ駆けたところに休憩所。道を引き返し東端まで走り、さらに進めば丘陵地帯――今日、探索…

26.ポールの行方#11

三つの人影の主はどれも意外だった。ハルにレオン・セルゲイ、そしてニッガ。 「驚いたなあ! なんでハルが? てっきりマカフィ達が来るとばかり」 合流し真っ先に言うと、ハルは屈託なく笑った。 「僕だってそう思うよ。ガランが指名してくれたんだ。ルロウ…

26.ポールの行方#10

休憩所に到着し、ソディックと手分けして荷物を運び込む。うまいぐあいに作りかけのシールド・ポールが荷物に入っていた。十日ほどでポールを完成させるとソディックは約束してくれた。 休憩所で一泊し、次の日は森の森の東方面を久しぶりに探索した。 白い…

26.ポールの行方#9

翌朝、あまりの寒さに毛布をかぶったまま部屋に入ったウィルを、一睡もしていなさそうなソディックが出迎えた。目の輝きは昨晩のまま、置いてきた食事もミードも手付かずのまま、床に山と積み上げらた何かの部品の真中で、彼は「私はここに残る」と言い出だ…

26.ポールの行方#8

壁全部が収納棚になっている様はなかなか壮観だ。たくさんの器具、装置、どれも初めて見るものばかりで、ありきたりの道具は見当たらない。棚の一つに近寄り中をのぞくと、けっこう奥行きがある。棚底には小さな丸が描かれていた。指で触れると、コトンとい…

26.ポールの行方#7

ソディックは直立したまま、視線を天井の端から床の隅までまんべんなく送っている。一度だけくるっと反対を振り返り、「ふむ」とまた元の姿勢に戻った。 「壁に描かれた青い枠が、扉。正面に立つと開いて、部屋に続いているんです」 説明し、手前の扉に歩み…

26.ポールの行方#6

「あ、思い出した。質問! 以前、新月祭のあと学校の庭でガランの授業があったでしょう。首都と森の話。確かその帰り道、『ガランの話は腑に落ちない』って言ってましたよね。『考えようとすると答えが逃げていく』って。あの答え、なんだったんですか?」 …

26.ポールの行方#5

下を見ると、ソディックは眼鏡を外して手に握り、眼をつむったままネットを揺らしている。 「寝ないでくださいよ」 声を掛けると、彼は眼を閉じたまま言った。 「無理」 「無理じゃなくて……寝過ごしたら夜になってしまう」 「平気。ライトがある」 太陽の光…

26.ポールの行方#4

まさかソディックから、こんな言葉が掛けられる日が来るとは思わなかった。彼は眼鏡の奥から熱い視線をこっちに送っている。ウィルはどきまぎした。これってもしや……期待されているんだろうか。頭をフル回転させた。 「えーと、じゃあ、エヴィーに乗ってソデ…

26.ポールの行方#3

四人で充分堪能した後、球体のスイッチをひねって光を消し、再びランプを燈したときには、魔法が終わったのかという気がした。輝く森の世界から、一瞬で元の薄暗い部屋へ。前よりずっと暗く陰気に感じた。ガランが「ハヴェオ、もっと灯りを強くしなさい」と…

26.ポールの行方#2

アリータがまず銃の弾を手に取り、説明してくれた。 「ウィリアム、新しい弾ができたわ。『光弾』よ」 「『光弾』?」 「撃った先で破裂して、強烈な光を出すの。ソディックさんが開発している『物』の話しを聞いて、作ってみたんだ。夜の森を探索するとき、…