27.始動#8

 次の瞬間。
 衝撃が襲った。
 体ごと鞍から弾き飛ばされかけた。
 万全の体制を崩したのは、予想をはるかに越えたシーサの跳躍力。シーサの力はすべて前方へに集中し、爆発的な加速となってウィルの体を大きくのけぞらせた。
 震動はまだほんの五・六度、ならばほんの五・六歩。なのに、すでにトンネルははるか後方へと遠のいている。
 加速はますます強く、がむしゃらに。ウィルの体を無茶苦茶に揺らした。
 太腿にあらんかぎりの力をこめ、最初のダッシュをなんとかしのぎ、夢中で前傾し、強く手綱をたぐり寄せ、シーサの首に頭をつけた。
 シーサもまた、頭を前へと突き出し、その首を追うように全身を傾け、前へ前へと駆ける。いや、翔んでいる。地を踏んだ震動と次の震動の、なんと間の長いこと! まるで羽がある鳥だ。あれほど高かったニッガの枝葉が、シーサの脚が地を蹴るたび、手が届きそうに近くなる。
 鼓動を百も数えないうち、わずかそれだけの間に、もうニッガの林の景色が変わっている。木立は均等にばらけ、陽光が明るい斑点を下草に描いている風景が、三百六十度ぐるりと続いている。その風景もまたどんどん移り変わってゆく。
 シーサはすでに、林の真ん中へと駆けきっていた。
 ウィルも落ち着きを取り戻し始めた。最初、まわりの風景が一瞬で後方へふっとんだかと思った、あの猛ダッシュも、今は一定の速度――とはいえ信じられないくらいのスピードだが――になっている。
 頭をあげ、体勢を立て直した。基本ポジションに戻る。――息をのんだ。
 すぐ脇を、ニッガの幹が自分達を避けるように湾曲し、後ろへ跳んで行く。
 いや、違う。シーサが、目指した方角へ、最短の道を、まったく減速せずに、木立をすれすれのところでかわし、駆け抜けているのだ。ニッガの大木に意志がやどり道を譲っているのかと見えるほど、なめらかな動きとともに。
 人間など及びもつかない、おそらくは太古に生息したすべての生物たちですらかなわない、純血パルヴィスにだけ許された才能が、これか。
 前方の視界が明るくなってきた。林の切れ目が近づいてくる。
 シーサはニッガの林の長い直径をつききり、あの草原にもうたどり着こうとしていた。ウィルは鐙を足がかりに、腰を浮かせた。
 このまま行け、シーサ。
 光はウィルたちのスピードに追いつけなかった。ぼんやりした光の輪郭がいっきに膨らみ、光の洪水へと変じる。太陽光が降りそそぐバーキン草原へと、飛び出した。
「シーサ、最高だ!」