2005-11-01から1ヶ月間の記事一覧

24.敵か味方か#4

大丈夫だ。ガランはわかってくれている。ちゃんとわかっているよと、俺に言っているんだ。 「暗くなんかありません。今からソディックさんの所へ行って、すぐに準備を始めます」 ガランは「そうかい。私が飲みたかったのに、残念だ」と笑った後、こう言った…

24.敵か味方か#3

新月祭から八日後、ガランに呼び出された。 そろそろ探索の報告をしろということだろう。ここのところ泊り駆けも新地開拓もしていなかったウィルは、気が重くなった。かといって理由は例の噂だなんて、とても言えない。噂はガランだけを避けて広まっているに…

24.敵か味方か#2

グレズリーの新しい助手、ケインは、男版エマおばさんと呼びたいくらい噂好きだった。暇を見つけてどころか暇を作ってでも村人達と長話ばかりしていて、とうとうグレズリーに小言をもらったとハルが教えてくれた。彼がどっちに付いているかは、聞かなくても…

24.敵か味方か#1

「ガランが『時計』を失ったとハヴェオが話していたらしい」という噂がカピタルじゅうに広まるのに、時間はかからなかった。 グレズリーの所に客が来るたび、さも新しいニュースのように、しかも必ず「大きな声では言えないが」と前置きして話をされるので、…

こどもぶろぐじ

わたりとりの書庫へようこそ。 栞でほっとひと息 第十五弾です。 今回は、童心に帰れるかもしれない話。 神社の境内を掃除していたら(※本業ではナイ)、おもしろいモノを見つけました。 百円くれろと言わんばかりの縦穴が開いた朱い箱、書かれていた言葉は …

23.フィブリンの陰で#14

セルゲイは次に拳を開き、ハルの頭を軽く叩いた。お前が付いていながら……と呟きながら。ハルはおとなしく叱られたあと、静かに口を開いた。 「セルゲイさん、ここで聞いたことは、誰にも話しません。でも知りたいことがあるんです」 「わしに? いかん」 セ…

23.フィブリンの陰で#13

長い沈黙が落ちた。 ガランは首を縦に振っただろうか、横に振っただろうか。フィブリンの陰から身を乗り出し見てみたい、という衝動にウィルが駆られたそのとき、場違いに朗らかなガランの声が聞こえた。 「やあレオン、すまなかなったな」 「話は済んだか」…

23.フィブリンの陰で#12

「あなたは本当に頑固だ」 ハヴェオの声に苦笑がにじんでいる。 「マリー・ペドロスといい勝負だ。それともあなたが吹き込んだのか? 子供達に『開拓者』とはどういうものかを伝えてくれと言ったのに、彼女も頑固だった。誰もが成人すればそうなるのだから、…

23.フィブリンの陰で#11

「……そうだろうと、思っていたよ」 次のハヴェオの言葉はカッと熱くなっていた。 「そう思っていたと? ほうら! あなたお得意の技だ、そうやって、はじめから何もかもわかっていたように言う! では、くだくだしく話すのはやめだ。私の本心を言おう。『開拓…

23.フィブリンの陰で#10

人影は村はずれの、みすぼらしいテントの陰に消えた。というより、テントの横に座り込んだオーエディエン竜の陰に隠れてしまった。フィブリンだ。明かりの少ない新月の夜、真っ黒い小山のようになって、フィブリンは眠りこけていた。 ウィルとハルは、足音を…

23.フィブリンの陰で#9

そうして、やがてすっかり騒ぎが鎮まってしまったところで、ガランははじめて口を開き、よく通る声で言った。 「決定したことのように発表した、のではない。決定した。私がリーダーとして、ハヴェオが指摘した二つの危険を承知のうえで決定した。だから発表…

23.フィブリンの陰で#8

広場は騒然とした。 公の場でリーダーに楯つくことなど許されなかった。まして、このような重大な決定に対して。それでもハヴェオを批難する声は少なかった。どういうことか説明しろという声が次第に大きくなる。 ハヴェオに話させろ、ガランの話はもういい…

23.フィブリンの陰で#7

森の中で、全員ひとところに集まり住むわけにはゆかない。村人を五十から百人程度の小グループに別け、森のあちこちに分散して住むことになる。まずは抗体クラスの高い者達を選抜し、カピタルの北、徒歩で半日の場所へ試験的に移住する。そこで生活の基盤を…

23.フィブリンの陰で#6

「そんな希望、聞いてもらえないと思うけど。みんながバーキンさんの服が欲しいと言い出しそうじゃないか」 マカフィは胸を反らした。 「こういうときこそ『開拓者』の特権を使うのさ。お前だってそうだろ、竜使いで開拓者だから、なんでも一番いいものを特…

23.フィブリンの陰で#5

森の木々はますます色を変え、緑と黄と赤が鮮やかに交じり合う雑木林が目に楽しい季節になった。 デコボコの木の横に、もうひとつ小屋が建った。天井が高く、丸テーブルと椅子と戸棚を備えた広い小屋。虫のように固まり寝るしかない小屋に比べると、ずっと家…

23.フィブリンの陰で#4

仰天したのはロックのほうだ。呻くように啼いて減速した。シーサの頭がロックの腹の下から飛び出した、と思ったらまた隠れた。シーサも減速したのだ。あくまでもそこで遊びたいらしい。 「シーサ! いいかげんに……あ、そうか。ロック、止まろう! ゆっくり減…

23.フィブリンの陰で#3

セルゲイは手早く指示を出した。まずはシーサを柵のそばに控えさせ、走り出さないようにウィル以外の四人で取り囲む。ウィルには、ロックに乗って五十リール程離れ、笛で「来い」の合図をするよう言った。 「離れすぎじゃないかい。ふだんの倍はある」 グレ…

23.フィブリンの陰で#2

初調教の日、ウィルは柵から出したロックを引き連れ、グレズリーの小屋を訪れた。 出迎えたグレズリーの、のっぺりとした赤茶色の服を見て、なるほどと思った。バーキン老人が作った物ではないと、ひと目でわかる。村中の人間がくすんだ色の服ばかり着ていた…

23.フィブリンの陰で#1

新しい月に入り、カピタルに変化が起こった。 村人達の服が、いっきに派手になったのだ。気球の布を使って縫った服が、一斉に配給されたからだ。 あることを打ち合わせしていた二人のテントに、新しい服を届けにやって来たバーキン老人が、目が覚めそうな赤…

Spider

ヘルメス神の庭から逃げた 小さな蜘蛛の赤ん坊 人の世界へやってはきたが 右も左もわからない 白糸せっせと紡いで広げた 巣の真ん中に座しまして 網に掛かった世界のカケラ 集めて組み立て悦に入り 網に触れたる心のカケラ 眺めて評して悦に入り ほう 世界と…

そこに虹がある

「同じ虹を見ることはできない」という話を読んだことがある。 虹は、太陽光線が空気中の水滴に入り屈折してできる「現象」。 目に入った光が網膜で映像を結び、虹として認知される。 視認する目の位置が変わると、受け取る光情報は違う。 よって、二人の人…

こんなコメントはイヤだ。

わたりとりの書庫へようこそ。 栞でほっとひと息 第十四弾です。 今回は、「イヤなものはイヤ」というお子ちゃまな話。 このブログでは未経験ですが、よそのブログでたまに目にします。 イヤなコメント。 「イヤ」と言うとおり、判断基準は私の好悪感だけで…

22.巡る輪#11

成人の日にガランが言っていた。人間は、他の生き物達と関わりながら生きてゆく力を失ってしまったのだと。だからこの森の輪に入れるかどうか、慎重に試さなければならないのだと。 絵の片隅に描かれた、人間と竜。自分達は今まで、そこだけで小さな輪をぐる…

22.巡る輪#10

努めていつもの調子を装って、ウィルは尋ねた。 「へえ、ラタがね。ときどき来るのか?」 「うん。最近よく来るよ。ラタお姉ちゃんは朝来て、ハルお兄ちゃんは夕方来るの。来て、廊下の絵をじーっと見てる。長いこと」 「ハルも来てるって?」 知らなかった…

22.巡る輪#9

廊下を渡り帰ろうとしたところを、甲高い声が呼びとめた。開け放された扉の向こうから、キディがピョコピョコ飛び跳ね手招きしている。 「今日こそ遊びに来たんだよね? ね?」 頭だけ教室の中へ突っ込んだウィルを、キディはさらに手招きした。「違うよ」と…

22.巡る輪#8

でも、と一方で思う。だからって、あのジェラみたいな死に方は俺は嫌だ。獣に襲われて死ぬのも真っ平だ。死んだそばから喰いちぎられていくなんて耐えられない。いや、俺はまだいいんだ。自分のことはいいとしても、村の誰かがそんなふうになるのは我慢でき…

22.巡る輪#7

白い建物の上階で天窓を開け、一泊過ごすことが最近の習慣になった。 今夜は新月祭だったが、かまわず泊り駆けに来てしまった。村人達と喋って騒ぐ気がしなかったからだ。 夜明けを待って、持ち帰れる最後の絵を抱え、建物を出た。風は冷たく、空が高い。秋…

22.巡る輪#6

「外部……『資源』……カピタル以外の……人と竜?」 わかった。見たことがある。遠くから。近づこうとしたら、サムに叱られ止められた。あれは―― 「全滅した共同体だ……」 「そう。カピタルは旅の途中で、何度も全滅した共同体と接触した。残された荷物も貴重な『…

22.巡る輪#5

「よろしい。生物は『成分』を取り込み続ける。しかしその全てが体内にとどまるわけではない。常に少しづつ捨てられている。排泄物、切った爪の先、抜け落ちる髪の毛、はがれ去る皮膚……我々は、自分の体ひとつを還したところで追いつかない量の『成分』を、…

22.巡る輪#4

『無意識』という単語は知らなかったが、当たっていると直感した。ソディックが放った言葉は、巣食っていた黒い雲を付き抜ける力があった。自分はきっと答えのすぐ隣まで来ている、来ていて、それを自分の手で握ることが怖いんだ。 「聞きます。たぶん俺、本…