24.敵か味方か#1

 「ガランが『時計』を失ったとハヴェオが話していたらしい」という噂がカピタルじゅうに広まるのに、時間はかからなかった。
 グレズリーの所に客が来るたび、さも新しいニュースのように、しかも必ず「大きな声では言えないが」と前置きして話をされるので、うんざりするとハルは言った。
「みんな、すごく困ったような、それでいてすごく嬉しそうな顔で話し始めるんだ。『もう知ってます』なんて言えないよ。いっそのこと、臨時集会でも開いてみんなの前で発表すればいいのに。そうすれば僕だって、コソコソと何度も同じ話を聞くような真似、しなくて済むんだ。すごい迷惑だ」
 ハルには珍しく辛らつだ。
「聞きたくないなら、断ればいいじゃないか」
「断りたいさ。でも、それはガランの側に付くという事なんだ。そう受け取られるんだ。僕はハヴェオの味方なんかしたくない、だからといって、ハヴェオの言うことを信じる人達を敵に回したくはないよ」
 ウィルはぎょっとした。
「まさか! いったい誰だよ、そんな意地の悪い人間? 話を聞かないだけで敵呼ばわりって、そんな馬鹿なことがあるか」
 ハルは首をすくめた。くすんだ色の古い服を着て、大人びた顔で言った。
「馬鹿なことじゃない。たしかに、カピタルはみんな優しくていい人達ばかりさ。でも、ウィルが思ってるよりも、大人はずっと――なんていうか――こういう噂が好きなんだ。待ってるんだ。楽しんでるんだ。ラタのマクヴァン騒ぎで、僕はいやというほど思い知った。ハヴェオのやりかたは汚いけど、本当に上手いと思う」
 そう聞いたところでいまいちピンと来なかったウィルも、三日経たないうちに思い知った。マカフィに、先発隊の者達に、エマおばさんにバーキン老人に、ともかく会う人会う人から「知ってるか?」と問いかけられ、最後には「で、どう思う?」と聞かれたからだ。
「どうって、ただの噂だろ。本当かどうかわからないんだろ」
 と返したウィルに、マカフィはいみじくも言った。
「じゃあお前は、ハヴェオさんの話は嘘だっていうんだな。ガランの味方に付くってことだな」
 さすがに「俺の敵ってことだな」とは言わなかったが、彼の口調にはそれに限りなく近い響きがあった。
 ウィルは泊り駆けをやめた。村を空けている間に一気に事が動きそうな気がして、落ち着かないからだ。
 唖然とするくらいあっけなく、カピタルは「ガランに付くかハヴェオに付くか」という話で覆い尽くされてしまった。噂は常に、どちらに付くかという本心を見せないまま語られている。しかし、噂が繰り返されるということそのものが、ガランよりハヴェオのほうが優勢という証なのだ――連日の聞き役を、「どれくらいハヴェオの味方が多いのか、調べるつもりで聞くよ」とわりきったハルが、夕食の後そう分析した。