24.敵か味方か#2

 グレズリーの新しい助手、ケインは、男版エマおばさんと呼びたいくらい噂好きだった。暇を見つけてどころか暇を作ってでも村人達と長話ばかりしていて、とうとうグレズリーに小言をもらったとハルが教えてくれた。彼がどっちに付いているかは、聞かなくてもわかる。シーサの調教をしに行ったところを捕えられ、こう言われたからだ。「君は『開拓者』だからな。あの噂はもちろん知っているのだろう?――なに、知らない?どうでもいいって? そんなことじゃいかんな、大切な話だ、俺が詳しく教えてやろうか」
 いりません、と撥ね付け、ウィルはさっさとシーサを引き出して調教に向かったけれど、ハルによれば、それはすでにガランの味方に付いたという態度なのだそうだ。
 そう思いたいなら、勝手にしろ。
 会っても噂話を持ち出さなかったのは、調教のとき立ち会ってくれるセルゲイとニッガくらいだった。話が彼らの耳にも入っていることは間違いない。黙っているということ、そのものが、ハヴェオの側に立つ気は無いという意思表示なのだとウィルは感じた。グレズリーは、ケインがウィルに纏(まと)わりついたとき「ケイン!いいかげんにしないか!」と驚くほどの大声で叱り飛ばしていたから――ガラン側じゃないか、と思う。
 いっぷう変わった態度を取っている男もいた。ビリー・ヒルだ。
 追加の抗体注入を受けに行って、ちょうどハヴェオがビリーの家から帰るところを見たウィルは、初めて自分から噂を持ち出した。どう思っているか、知りたかったからだ。彼はハヴェオと兄弟のように仲がいいとバーキン老人から聞いている。当然、ガランの側には付かないだろうが……
「俺がその噂を知らないとでも思うか。何が聞きたい」
 ビリー・ヒルは威嚇するように、ぶっとい注射針をこっちに向けた。ウィルは思わずぎゅっと目を閉じたが、かろうじて逃げたい気持ちを押さえつけた。
「ビリーさんと反対の側に付いた人間のことを、どう思うのか。それを聞きたいです」
「少なくとも、お前には対してはこれまでどおりだ。親父の遺言があるからな」
 さっさと服を脱げとベッドを指差し、彼はぶっきらぼうに答える。ウィルが欲しいのは、そんな答えでは無かった。手に押し付けられたマクヴァン入りのお茶を押し返し、くい下がった。
「そうじゃなくて。以前、言ってましたよね。仕事で誰かを特別扱いしたりはしない、相手がどんな人間でも同じ事をするって。それは今でも変わらないんですよね」
「ずいぶんと生意気を言うな、竜使い」
 彼は目をぎょろぎょろさせ、じっとこちらを睨みつけた。しかしその後、びっくりするほど朗らかに笑って言った。
「俺は変わらんさ。どちらにも肩入れする気は無い。安心しろ、自分の立場はわかっているつもりだ――ところでお前は、ずいぶん変わったな」
 そうだろうか。自分ではわからない。
 今のカピタルのほうが、よっぽど変わってしまったと思う。