2005-03-01から1ヶ月間の記事一覧

05.銃 #10

同時に、鋭い口笛よりなお高い、耳をつんざく大音響が響きわたった。金属をこするような、神経を無茶苦茶にかき乱す音。 音は、銀の弾が飛び跳ねるにあわせて二人の鼓膜を突き抜け、真っ赤に燃える石の真中へとびこんでやっと鳴り止んだ。 ウィルは引き金を…

05.銃 #9

沈黙した空気をほぐすように、アリータが口を開いた。 「ま、そういうことよ。もうほとんど完成だけど、弾がいま装填(そうてん)した分しかないんだ。大急ぎで作るから、あと五日ほどしたら来て」 「わかりました」 「それまでは、無理しないように。森に入…

05.銃 #8

「そう。首都から持ちだした金属も、燃える石も火薬も、使っていいと言われた。ガランて、ただ温厚なおじいさんに見えるけど、たいしたものだわ。森を見つけたときに必要なもの、そのために要る資源の配分、全部はじめから考えてたみたい。成人の日、『銃』…

05.銃 #7

「なんで、そんなぶっそうなモノ、こんな所に置くんですか!」 思わず怒鳴っていた。だがアリータは動じる気配もない。 「だって、必要なんだもの」 「何に!」 「これに」 アリータは放り投げていた銀筒を指でつまんで、顔の前に掲げた。 ウィルは我知らず…

05.銃 #6

部屋は火力を最大にしたいくつものランプで惜しみなく照らされていた。 中央に紅く燃える石がぎっしりと詰まった鉄の箱があり、床や机の上にはおよそ細身のアリータが操るとは思えない鉄製の器具が散乱している。燃える石の熱気でうだるようだ。だが、どこか…

05.銃 #5

ラタの家は木組みの家だ。 学校、ガランの家に続き、カピタルで三番目に「建てられた」のが、なぜかラタの家だった。もっとも、家といっても、扉を入ってすぐ大き目の部屋がひとつ、それだけの物だったが。 中は、女所帯らしく手作りの小物が溢れ、綺麗に編…

05.銃 #4

「え?」 ウィルは驚いて聞き返した。 アリータはやれやれと手を広げて言った。 「やっぱり聞いてないのね。もう、大事な竜使いだってのに、なんでこう気を廻せるヤツがいないんだろ」 「何のこと?」 「決まってるじゃない。あなた、森に素手で入るつもり?…

05.銃 #3

ラタは眉をぎゅっと上げた。 「私が? 興味がないなんて、いつ言ったのよ」 「竜使いを目指してなんかいない、って。騎乗試験の後に」 ラタは呆れたといった顔で言った。 「馬鹿ねえ」 ウィルはむっとして黙った。 天気もよし、体調もよし、心躍る一歩を踏み…

05.銃 #2

ウィルは、ラタの「竜使い発言」のあと、『あなたはお父様の竜を使うんでしょう。いいわよね、リラックスできて』と言われていらい、今までにまして口をきかなくなった。子供たちが試験に使うロックダムという竜は、たしかに気性の荒いパルヴィス竜だったが…

05.銃 #1

ハルがグレズリーのところへ初出勤するというので、二人は自分達のテントのところで別れた。 「がんばれよ」 ウィルはハルの背中を叩いて送りだした。 うなずいたハルは、かたがった足をはためかせて嬉しそうに走っていった。グレズリーの小屋にずらっと居並…

04.老竜使い #7

「うむ、すぐには無理だ」 腕組みをして聞いていたセルゲイが、しばらくして言った。ウィルは唇がしびれて、しまいにはピイもでなくなってしまった。 「宿題だと思って、練習しておけ。しばらくは村の近くを回るんだから、笛がいるような走り方はしないだろ…

04.老竜使い #6

「竜に複雑な動きをさせるには、笛を使う。普通は生れて半年以内にマスターが調教するものなんだが、この竜はサムが乗っていたからな。今から新しく覚え込ませるわけにはいかない。わしがサムの吹き方を覚えているから、それを真似するんだ。いいか」 セルゲ…

04.老竜使い #5

ウィルは感激でぼうっとなっていた。エヴィーが大地を踏みしめる振動といっしょに、竜使いになる実感がふくれあがっていた。訓練はまだ始まったばかりだ。しかし自分よりはるかに大きく力強い生き物が、心のままに動き手足となってくれる奇跡を、全身で感じ…

04.老竜使い #4

ハルはテントへ跳んでいった。 ウィルはいよいよ火にかけられた竜ヒレ肉の心境になってきた。得体のしれない物を持ってこさせて、いったい何をする気だろう。竜使いになった誇らしい気持ちは、股が痛いくらいで飛んでいってしまうものなのか。セルゲイの表情…

04.老竜使い #3

「僕、平気です」 「ハルは、大丈夫です」 二人は同時にきっぱり答えた。セルゲイは二人の顔を見回した。なにか言いたげだった。 しかし言葉をのみこむと、ウィルに向き直った。 「よろしい、で、竜の乗りかたを教えて欲しいんだな」 ウィルはセルゲイが笑う…

04.老竜使い #2

二人はとびあがって振り返った。セルゲイが杖によりかかり、不機嫌そうな顔で立っていた。 「あの、竜の乗り方を教えてもらいに来ました」 ウィルは言って、急いで付け加えた。 「ディム・ガランから聞いていませんか」 「聞いている」 セルゲイの機嫌は直ら…

04.老竜使い #1

ありったけのご馳走づくめと、カピタルじゅうの大人達から祝福を受けた次の日、ウィルはレオン・セルゲイのもとへ向かった。 鞍と手綱をつけたエヴィーを連れているのはともかく、ハルまで同行していた。どうしても付いていくと言うのを、断れなかったのだ。…

03.成人の報告 #11

しばらくして、ゆっくり口を開いた。 「ガラン殿、」 「ガランでよい。『殿』は一回きりでよいのだ」 二人は笑った。緊張がふっとほぐれた。 「ガラン、僕は、自分の体のことを、ちゃんとわかっているつもりです。無理な仕事についても、かえって迷惑をかけ…

03.成人の報告 #10

「さて、次はハルミ、君のこれからのことを話そう。君は、体のこともあるし、あまり激しい仕事にはつけまい。たしか、クラスはDだったと思うが」 「Eです」 ハルは小さく答えた。 カピタルの住人は、誕生してすぐに抗体検査を受ける。環境に適応する能力が…

03.成人の報告 #9

陽は少し傾き、部屋はかすかにオレンジ色に染まっている。 カップの中には、竜の乳を発酵させたミード酒が満たされていた。働く大人達だけに許される酒だ。もちろんウィルとハルには初めてのものだった。 三人はハヴェオが退室するのを待って、カップに口を…

03.成人の報告 #8

「竜には、乗りましたが」 ウィルが口を軽くとがらせると、まあまあと手を揺らした。 「乗れただけで、騎乗とは言えんな。まあ、笛が使えるようになったら一人前だよ。レオン・セルゲイに会ってこい。実際の竜使いに聞くのが一番だ」 「レオン・セルゲイ!」…

03.成人の報告 #7

しかしガランは泳がせていた目をウィルの顔へ戻すと、きっぱりと言った。 「それでも、焦ってはいけない。君を犠牲にして得るものはない」 ウィルの心は上ずっていた。 一年前のサムの様子を、思い出そうとしていた。竜使いの自負と誇りにあふれた父だった。…

03.成人の報告 #6

「なんだね?」 「父は、森を探索していて、怪我をした。エヴィーに乗って森に入って、ある日太ももを血だらけにして帰ってきて・・・。父は言っていました。『早まったことをした』と。今でも、あの声を覚えている。あの後、俺達は学校に預けられたから、何が…

03.成人の報告 #5

「俺、やります」 ウィルは即座に答えた。 ガランはにっこり笑った。 「君は本当にサムソンに似ている・・・。では、続けるぞ。君の任務は、まず森を探索することだ。どのような地形か、どんな植物があるか、どんな生物がいるか、確認することだ」 「探索、です…

03.成人の報告 #4

サムは、森が発見されてからしばらくの探索の後に、怪我が原因で何かに感染し、まもなく亡くなっていた。一年前のことだ。 「我々は、この森に入植しなければならん。一年かけて、少しづつ環境にも慣れてきた。生活も便利になった。屋根のある家に住み、土を…

03.成人の報告 #3

「みなに、このことを知らせねばなりませんね」 ハヴェオが、嬉しそうに言った。彼も、竜使い誕生の瞬間を見るのは初めてだったのだ。 「あのう、もう知っていると思います」 ハルが言いにくそうに訂正すると、大人達はいっせいに笑った。ウィルも照れくさそ…

03.成人の報告 #2

「うむ、嬉しい知らせのようだな?」 ガランもハヴェオも、笑みをたたえて少年達の顔を眺めた。 「共同体カピタルのリーダー、ガラン殿に報告いたします。俺……私、ウィリアム・リロードは、作日、十四の誕生日を迎えました。」 ウィルは、先に成人した先輩達…

03.成人の報告 #1

カピタルの住人は、一年前に森を発見していらい、その外円周に沿ってテント村をつくって暮らしている。しだいに、長旅でくたびれたテントが少しづつ捨てられ、新しく加工する事を覚えた木材の家が建ちはじめている。 最初にちゃんとした「家」を持ったのは、…

目次

ファンタジー長編です。 遠い遠い未来、大地の果てで生きる、千人たらずの人々の物語。彼らが迎える結末を、見届けていただけるなら幸いです。 ページ移動は、本文 上下の「前の記事へ」「次の記事へ」をご利用ください。 >「Capital Forest」を最初から読…

02.騎乗試験 #8

黙ったウィルを見て、ハルは少し笑った。 「ごめん、おかしなことを言って」 「いや、いいんだ」 「じゃあ、こうしよう。僕の試験はやめておく。そのかわり、いっしょに後ろに乗せてよ」 「いっしょに?」 ハルの顔に、快活さが戻ってきた。 「そうさ、昔お…