04.老竜使い #6

「竜に複雑な動きをさせるには、笛を使う。普通は生れて半年以内にマスターが調教するものなんだが、この竜はサムが乗っていたからな。今から新しく覚え込ませるわけにはいかない。わしがサムの吹き方を覚えているから、それを真似するんだ。いいか」
 セルゲイは笛をくわえると、ヒョウヒョウと上から下へ流すように二度ならした。
 そのとき、後ろから声があがった。
「エヴィー、おいで!」
 二人は驚いて振り替えった。ハルが、白い歯を見せて笑っていた。
「そう、これは『来い』の合図だ。知っていたのか」
 セルゲイが感心した面持ちで言った。
「ハル、よく覚えていたなあ」
 ウィルも同感だった。ハルは、待ちきれずに柵を開けて走りよってきた。
「僕、おじさんが吹いているのを何度か聞いたよ」
 確かに、サムは二人の前で笛を吹いたことがあったかもしれない。しかしウィルもはっきりとは覚えていなかった。ハルの記憶力はときどき周囲を驚かせたが、それにしても合図の内容まで覚えているなんて。
「ハルミ、ほかの合図を覚えているかね?」
 セルゲイが興味深げに聞いた。しかしハルは首を横に振った。
「いいえ、聞いたことがないから」
 覚えていないのでなく、聞いたことがないというのは、ハルらしかった。
「まあ、そうだろう。他の合図は、村の中でするようなものではないからな」
 セルゲイはウィルに向き直った。
「とりあえず、『来い』からやってみろ。初めの一歩というだろう。これが出なければ、話にならん」
 ウィルは笛を受け取って裾(すそ)でちょっと拭ってから、口にくわえた。ふっと吹いても、息が漏れる音しかしなかった。
「コツがいるんだ。口を横にひけ、指笛を吹くときみたいにな。唇を少し重ねて、息を速く吹く。そうだ、そこに笛をくわえてみろ」
 もう一度吹いてみた。ピイと鳥が鳴くような音がした。
「よし、そんな感じだ。唇を調整すると、音の高さが変わる。音が変わるようになったら、上から下へ伸ばして吹けばいい」
 何度か吹いてみると、ほどなくピイという高い音は簡単に出るようになった。しかし微妙な調整が難しく、なかなか低めの音が出ない。ときどき自分への合図に聞こえるのか、エヴィーが横でそわそわ足踏みした。