02.騎乗試験 #8

 黙ったウィルを見て、ハルは少し笑った。
「ごめん、おかしなことを言って」
「いや、いいんだ」
「じゃあ、こうしよう。僕の試験はやめておく。そのかわり、いっしょに後ろに乗せてよ」
「いっしょに?」
 ハルの顔に、快活さが戻ってきた。
「そうさ、昔おじさんが、いっしょに乗せてくれたじゃないか。一人では絶対にだめだったけど、自分といっしょならいいって。説明してくれただろう」
 その通りだった。サムは時々エヴィーに鞍をおいて、二人を自分の後ろに乗せてくれた。竜はマスターが選んだ相手なら、マスターが命じれば、背中に乗せてくれるのだ。
「そういえば、そんなこともあったな」
 ウィルは感心して言った。
 最後に乗せてもらったのは、森が見つかるずっと前、確か八歳ごろの話だ。ハルの竜に関する記憶力は異常なほどで、カピタル中の竜の名前と個性を見分けたし、三年前の夏、どの竜が食欲があったか、機嫌が悪かったかまで覚えていた。
「よし、じゃあ足をかけて」
 ハルは言われた通り、エヴィーの膝のこぶに足をかけ、ウィルが差し出した手を握った。 そのとき、エヴィーがふいに膝を折ってかがみこんだ。
「はっはあ!ほらハル、はやく乗れってよ」
 エヴィーは従順な召し使いのように、ハルがウィルの後ろに収まるまでじっとしていた。それからゆっくりと身体を戻し、小さく鳴いた。
 ハルが大きくため息をついた。ウィルから顔は見えなかったが、感激で言葉が出ないようだ。
 ウィルも同じだった。
 もう何十日も前から、今日のことを頭の中で繰りかえし考えた。もし失敗したらどんな気持ちだろう、成功したらどんな気持ちだろう?。こんな、空に舞い上がって世界を手に包んだような、はちきれそうな幸福感が待っているなんて、とても想像できなかった。
 ウィルは、エヴィーの手綱をしっかり掴んだ。

 俺は、竜使いだ!

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