02.騎乗試験 #7

「そうだろ。ハルにあわせて、俺の試験を一日延ばしたんだぞ」
「僕は……やめておく」
 ハルは言って、後ずさった。
 今までの快活さは消え、深刻な顔をしていた。
「僕は、ほら、こんなだろ……。乗れないと思うよ。ケガをするといけないし」
 ハルは生まれた時から背骨が曲がっていて、身体が右側に傾いていた。右手も少し不自由で、それによく熱を出して寝込むことが多かった。サムが生きていたときから、あまり激しい運動はしないように言われていた。
 確かに、エヴィーがハルを振り落とすようなことがあったら、彼はうまく手をつけずに地面に叩き付けられそうだった。もし怪我でもしたら、傷口から得体のしれないものが入り込んで、どんな病気になるかわからなかい。
 けれど、ウィルはあきらめられなかった。ハルがどれほど竜が好きか、どれほど竜使いに憧れているか、よく知っていたから。
「ばかなこと言うな。俺が支えてやるよ。大丈夫、ケガなんかしない」
「いや、いいんだ」
「俺よりエヴィーと仲がいいくせに、何を怖がってるんだ」
「仲がいいのと、乗せるかどうかとは別だよ」
 ハルは言い張った。強情だ。
「俺だって、すごいプレッシャーだったんだ。男らしくないぞ」
「男らしくなくていいさ」
 ハルは横を向いていた。ウィルは、それ以上言えなくなった。
 自分がエヴィーに向かったときには、プレッシャーと同時に「乗れるはずだ」という思いもあった。サムの息子だったからだ。しかし竜使いの血を持たないハルはおそらくパスできないだろう。
 竜好きのハルにとって、生まれつき体を思いきり動かせないハルにとって、「乗れない」とはっきりするよりも「乗れるかもしれない」と思いながら生きていくほうが、良いのかもしれないと思った。