27.始動#7

 空は快晴。ハル、ニッガにレオン・セルゲイ、グレズリー、家がほど近いラタとアリータまで顔を揃えた。みんなにかわるがわる背を撫でられ、頼むぞ、楽しみね、と声を掛けられ、シーサは上機嫌。といっても、いつもシーサは上機嫌だけれど。
 さあ、いよいよ、という視線がウィルに集まった。本当は、最初の騎乗試験のときみたいに、ハルと二人きりで試してみたかったけれど――仕方がない。誰にも見られたくないなんて弱気を出した時点で、シーサに乗る資格はない、そんな気もする。
 六人にぐるっと囲まれた真ん中で、シーサの手綱を掴み、鐙に脚を掛け、息を整え――軽々と跨(またが)った。シーサが首を高く逸らす。
「乗った!」
「やったわ!」
 一斉に声が上る。ラタが大きく拍手した。シーサがピョイッと飛び上がり、小さく鳴いた。音に驚いたのだ。駆け出そうとするのを、正面のグレズリーが慌てて両手を広げ止める。「おおっと、待て待て!もうちっと待ちな、シーサ」
 ごめんなさいと両手を後ろに隠したラタの横で、レオン・セルゲイが忠告した。まずは、並足でよく感触を掴んでから走るように、と。もちろんウィルもそのつもりだ。純血パルヴィスを侮る気は無い。
 皆に見送られ、出発した。
 ミード草のトンネルに入った。シーサは意気揚々と進む。軽い足取り、小さな背中、ウィルの体全体がリズミカルに揺れる。エヴィーの上で感じる安定感とも、ロックダムの上で感じる力強さとも違う、歌を口ずさみステップを踏むような躍動感。
 ウィルはまだシーサの手綱をしぼらない。オーエディエン竜に合わせて広げたトンネルは見通しがいい。背筋をまっすぐのばすことができる。頭の上にもまだ余裕がある。シーサの機嫌もいい。体制は万全だ。けれど、ウィルはまだ決断しなかった。
 走るなら、もっと広い場所で、おもいきり走らせたい。どんなふうだろう。どんな速さ、どんな衝撃?純血のパルヴィス、シーサの走りは。
 やがてトンネルを抜け、ニッガの林に入った。今日の陽射しは、幾重にも茂るニッガの濃緑葉をつきぬけて、随分明るく林の下草を照らしている。見通しはいつもの五割増しはいい。まるで、さっさと決断しろと背中を押されているようだ。
 ウィルはごくりと喉をならした。
 そろそろ、行くか。
 垂らした手綱を握り直す。
 シーサが主人の動きを感じ取った。なかばふざけたような軽い足並みが、力強くゆっくりとしたものに変わる。
 全身の状態を点検した。手袋にくるまれた指に力が入りすぎていないか、鐙のなかのブーツがしっかり固定されているか。集中する。腰を後ろにずらし、深く前傾した。
「シーサ、準備はいいか」
 シーサの背が、ぐっと前へ傾いた。
 そのとき、
 シーサの視線が、重なった。俺が睨む先、一点に。俺と、シーサ、重なった、ひとつになった、そうだ今だ、息を深く吸い、止め、そして
「行け!」