26.ポールの行方#15

 昼前に休憩所に着きソディックの姿を探した。どの部屋にも見あたらない。ひょっとしてとニ階に上ってみると、彼はドーム天井の部屋でベッドの一つに寝転んでいた。扉が開く音に身を起こし、眼鏡をかけ言った。
「遅かった」
「すみません、昨日は安息日だったから……一日の遅れくらい、すぐ取り返します。今からすぐ座標地点へ行ってポールを――」
 ソディックは首を振った。
「そういう意味ではなく。遅かった。ポールは無い」
「無い!? どういうことですか!」
「奪われた。三本とも」
 驚き突っ立っているウィルに、ソディックは座れと隣のベッドを指差した。座ってなんかいられない。話をせっつくと、彼はベッドに腰掛けたまま話し出した。
 昨日の昼。玄関に一番近い部屋のテーブルに、完成した三本のポールを置き、ソディックは別の部屋で新しい研究に取り掛かっていた。背後で部屋の扉が開き、ああ来たかを思い振り返った目の前に、ルロウの竜使いが立っていた。三本のポールを脇に抱えて。長身の竜使い、ソディックが一番警戒が必要だと言った竜使いが。彼は大振りのナイフを握っていた。そしてポールの使い方を説明しろと脅した――
「それで、教えたんですか」
 割り込んだウィルの言葉に、ソディックは悪びれもせず答えた。
「教えた。教えなければ脚の健を切ると言われた。痛いことは嫌いだ」
 相手のやりくちは巧妙だった。シールド・ポールはソディックにしか作れない、だからソディックの手や命を傷つけるわけにはいかないと、奴は知っているのだ。
「で、でも、座標まで教えたわけじゃないですよね?」
「座標も教えた。正しい場所に埋めてくれるなら不服は無い」
「そんな! あいつらに奪われて、なんとも思わないんですか」
「思わない。誰が埋めようと構わない。ポールが正常に動作すれば」
 ソディックは本心からそう思っているらしかった。
 ウィルはがっくり肩を落とした。自分のこの煮えくり返る気持ちは、わかってもらえそうになかった。
 踵を返しかけたウィルの背に、ソディックが「これ」と声を掛けた。
 にゅっと突き出した彼の手の上に、方位磁石に似た、平たく丸い装置が乗っていた。いくつかのボタンとツマミが付いている。円形のパネルに目盛り付きの十字が薄く描かれている。ひとつだけ赤いボタンを押すと、パネル上に四つの色違いの光点が現れた。
 四つの光点は、幾何学的に並んでいる。片方が大きく開いた四角形の頂点のようにも見えるし、大きな円の周の一部のようにも……
「あ! これって、ポールの!」
「そう。六つのポールの位置。そのうち三つが今現在同じ場所にあり、重なって見える。カピタルの位置のすぐ隣、つまりルロウにある」
 ソディックは白く光る光点を指差した。赤、青、緑の三点が重なり、白く光っているのだと。
「私はポールの動作だけに興味がある。ポールを誰が埋めるかは、君の問題。ただ、まあ、そうだな……」
 彼は妙にあいまいな言葉遣いをした。不思議な照れ笑いを浮かべ、手の中の装置をぽんと投げよこして言った。
「どうしても君が埋めたいなら、機会を待つべき。この白い光点が別れ、動き出した『時』を逃がさないこと。と、私は考える。――健闘を祈る」

イメージ 1「Capital Forest」 -ポールの行方- 完話>>>次章 -始動-