26.ポールの行方#14

 ソディックの大荷物を届けに、休憩所とバーキン草原を往復する日が四日続いた。
 最後の荷物を運び終えた昼、ソディックは七日後にもう一度来るように言った。三本のポールを渡すから、と。それを聞いてすぐに引き返しバーキン草原へ戻ると、ハル達は撤収した後だった。ニッガの林を駆けもうすぐカピタルというところで、再び合流した。セルゲイがフィブリンの上から声を掛けてきた。
「ガランに会いに行く気か?」
「はい。このまま報告に行って来ます」
 答えると、セルゲイはしばらくウィルと、ウィルを乗せゆったりと歩むエヴィーを見降ろし言った。
「ウィリアム、ひとつ忠告しておく。なんでもかんでも明るみに出せばいいというものではない。口に出さないからこそ融通が利くことがあるのだ。ガランは寛大なリーダーだ。だがそれ以上に公平なリーダーだ。……この意味が、わかるか」
 ……エヴィーのことを尋ねるのはよせ、という意味らしかった。
 ハル達を追い越し、ミード草のトンネルをくぐる。久しぶりのカピタルは静かだ。ルロウと揉めごとが起こった様子もない。ガランの家に向かった。
 ガランはハヴェオとさし向かいで地図を広げ、何かを話し込んでいるところだった。「戻ったか。ご苦労」とウィルをねぎらい、ポールの製作はどうかと尋ねてきた。
「順調です。七日後に渡すと言われました。三本いっぺんに揃うらしいです」
「ほう、それは喜ばしい。あとは君の出番だ。これから忙しくなるね」
 ハヴェオが眉を寄せ、こちらを振り仰いだ。
「君の探索は呑気すぎるのではないか。あの年老いたパルヴィスでは、はかどらんだろう。若い竜に乗り換えたらどうかね。今の竜はもう――」
「そこは、うまくやります。エヴィーはまだ必要です。俺のやりかたで進めます」
 慌てて遮った。ハヴェオはますます顔をしかめたが、知るもんか、と思う。リーダーはハヴェオじゃない、ガランなんだ。ガランはうなずいた。
「君の思うように進めたら良い。焦らず、しかし計画を立てて進めなさい」
 ハヴェオが「できるだけ早く計画を――」と言いかけたのを無視し、ガランに一礼して部屋を出た。リーダーの許可はもらった。もう大丈夫だ。エヴィーをルロウに渡したりはしない。
 それから七日間は、エヴィーとロックの二頭を連れ、東の丘陵地帯を探索するためのテント設営に費やした。バルワ大河から北上し丘陵地帯へ踏み込んだ地点に、防水テントを張り、テントを囲んで丸く杭を打ち込む。杭に棘だらけの針金をぐるぐる巻きつけ、カリフ対策を講じる。簡易竈(かまど)をこしらえ、テントに非常食をストックした。ポールが完成したら、ここを拠点にして四番目の地点へ向かってやる。
 宿泊テントを完成させ、カピタルに帰った翌日は安息日だった。ソディックと約束した七日目。ウィルは久しぶりの安息日を、休憩に使った。ロックと毎日走っても、まだ楽に騎乗にできるとはとても言えなかった。ハルが用意してくれる食事とミードをがっついて、あとは丸一日、泥のように眠った。
 一日くらい延びても大丈夫だと思った。準備は万全、ポールを受け取ったらすぐに第四地点に向かえるのだから……
 その、たった一日の油断が、決定的な遅れを招いたと知ったのは、翌日だった。