27.始動#3

 ウィル!と声が飛んできた。ハルだ。柵に張り付いている大人達から離れ駆け寄ってきた。
「なんなんだ? あいつら、なんであんなこと!」
 怒鳴るように尋ねる。ハルは首を振った。
「わからない。騒ぎに気付いたときにはもう遅かったんだ。僕達の目の前で、松明(たいまつ)を何本も草むらに投げ入れて、あっという間に火が広がって――」
「何事だ!これはいったい――」
 後ろからハヴェオが自分達を追い越して行った。
 彼は大人達の輪に入り、険しい顔で話を聞いた。と、頭を抱えるようにして幾度も首を振り、柵を乗り越えルロウの居住区へ入って行った。わらわらと集まったルロウ人達に囲まれる。何か言い合う声が聞こえ、しばらくして、十数人のルロウ人に囲まれたまま、ハヴェオはさらに東の方へと歩き去っていった。
「行っちゃった……大丈夫かな」
 ハルと二人、顔を見合わせた。カピタルの大人達も、不安げにひとところに集まり様子を見守っている。そこへガランが到着した。走ったのだろうか、息を軽くきらし胸をさすりながら「全員、こちらに!」と手を高く挙げた。
 見張りの者、騒ぎを知り駆けつけてきた者、数十人がガランを囲んだ。
「ガラン、あいつらが森に火を――」
「俺達がやめろって言っても、まるで耳を貸さなかったんです。あいつら――」
 マカフィと若い男達が我さきに喋りだした。そこへレオン・セルゲイが杖をぐいっと掲げ、皆の視線を吸い寄せて言った。
「わずかだが風は西向きに吹いている。こちらまで延焼するぞ。草を刈るしか方法は無い。ルロウとの境界線では間に合わない。こちら側に五十リール入った場所を一斉に刈ろう」
 ガランがうなずく。全員で手分けしようと言い、村人達に招集をかけるよう指示を出した。全員いったん村に散り、鎌を持って大至急東外れに集まるようにと。
 ウィルの担当は西の集落。全速力で走り、エヴィーの小屋へ駆け込んだ。もどかしく鞍と鐙(あぶみ)を付け、エヴィーを引き出し跨った。鐙を鳴らす。大声で叫びながら西へ駆けた。
 全員参集!東の外れに、鎌を持って走れ!わけは向こうで説明する――
 ソディックにも知らせないと、と西外れまで走り、テントが消えた空間を目にして思い出した。そうだ、もういなかったんだっけ。エヴィーの首を巡らせ東へ戻りながら、大声で同じ号令を繰り返す。自分のテントの前で飛び降り中へ入り、鎌を二本、引っ掴んだ。東へ駆ける。
 煙のひどい匂いが立ち込めてきたころ、続々と集まってきた大人達がミード草の草むらに次々と入って行くのが見えた。レオン・セルゲイが大声で指示を出している。草むらの入り口で手を振っているハルを見つけた。駆け寄り鎌を渡す。
「来たか。お前達はずっと奥だ。急げ!」
 セルゲイの急かされ、ろくに刈られていない草むらの奥へ突っ込んだ。もう煙が漂いはじめている。ハルが激しくむせかえった。