28.スタミナ比べ#10

「無理に決まってる。そんな、絶対に……」
「よく考えろ。純血を飼い殺しにする気か? それともその子をか? どっちもひでえ話だ。乗り手に捨てられたパルヴィスがどんなに惨めか、わかってるはずだな? 誰が乗ったっていいじゃねえか、乗り手がカピタル人だろうがルロウ人だろうが、そんなこたぁ竜にはどうでもいいことだ」
 言い返せなかった。
 確かにそうなのだ。シーサの準備が整ったら完全に乗り換えようと思っていたんだから――いや、まともにちゃんと考えてなかった、ただ頭の隅のほうで、シーサが成竜になったらロックに乗ることは減るだろう、と思っていただけ……減るだろう? 減るどころか、乗らないに決まってる。あのシーサの速さ、素晴らしさ、ロックに戻ることなんて考えられない。なのに、なんでパドに言われるまで、自分ではっきり言葉にしなかったんだろう。シーサが居ればロックは要らない、ということを。
 返事が無いのをいいことに、パドが「じゃあな、頼んだぜ」とたたみ掛けた。ウィルは慌てて首を振った。
「駄目だったら、そんな――あ、あんた達は敵じゃないか。敵に大事な竜をやれるもんか」
「わっかんねぇ奴だな。大事な竜だからこそ、よこせってんだ。お前の都合で竜を弄(もてあそ)ぶ気かと言ってるんだ」
「違う、俺の都合じゃない! あんた達には渡せないってことだ。あんた達は敵だ、だから」
「こんなにべらべら喋りあってる敵同士がいるもんかい。意地を張るな、小僧」
 あんたがべらべら喋らせたんだろ!と言い返したくても、言葉が出てこなかった。話せば話すほどパドの思い通りになる気がする。ウィルはぎゅっと口をつぐみ、ぶるぶる首を振った。そうだ、喋りすぎたんだ。こんな奴相手に、口をきいてはいけないと命令されていたのに、やめておくんだった。
 ウィルの変化を見取ったパドが、小さく溜息を付いた。
「はぁ、なにかい、今度はだんまりかい。まあいい、今ここで決めなくたってさ。だがなあ小僧、これだけは言っておくぞ。敵、敵って、そういう言葉をむやみに使わないほうがいい。ここの弱い奴だと思われるぞ」
 彼は自分の頭をちょんちょんと指さした。「この意味がわかるか? わかんねぇなら、お前はホントにここが弱いんだ。はっきり言ってやるよ、馬鹿小僧」
 ウィルは鐙(あぶみ)を鳴らした。ロックが力強く駆け出した。こんな男を相手にしたのが間違いだった。丘陵地帯はもう終わり。白い道へと続く雑木林が、みるみる目前に広がり迫る。とっとと奴を引き離し、カピタルに帰ろう。
「よーぅ、待てって! あ、悪かったよう、馬鹿なんて言って、な、なぁ小僧、おーい」
 間延びした声が飛んできた。無視だ。
 減速せず駆け続け、林に飛び込んだ。ほとんど葉が落ちた林は見通しがいい。ロックの勢いに任せ、左右から突き出す小さな枝をビシビシ跳ね飛ばしながら突き進んだ。