28.スタミナ比べ#9

「綺麗?」
 バーキン老人が作った服のことか、それともまさか――?
 気味悪い想いで視線をあさっての方向へそらす。パドが指を振った。
「こら待て、勘違いするな。竜のことに決まってるだろ」
「……ああ、ロックのことか」
 ほっと肩を落とし、おかしくて笑い出したウィルに、彼は大真面目に言った。
「ロックってのか? ――え? ロックダム? ふーん、本当にいい竜だな。骨格も筋肉の付き方も毛並みも最高だ。そら、そこの膝頭の上の筋肉の動き、見てみろ。たいていのパルヴィスはそこがブルブル揺れてよ、締りがないんだ。なのにどうだい、その子ときたら、いい動きじゃないかぁ、惚れ惚れするぜ」
 ろうろうと薀蓄(うんちく)を語りだしたパドの目が輝いている。まるで竜のことを語るハルみたいに――ああそうか、こいつ竜使いだったっけ。そういえば。
「体力もある、脚力も充分、なにより気立てがいい。こいつが若い頃とよく似てる。なにより綺麗だあな。お前もそう思うだろ?」
「スタミナは確かにあるけど、綺麗と思ったことは……」
「なにぃ、なんて奴だ。お前の目は節穴か。失礼な奴だ。お前には竜に対する敬意ってもんが足りない。いや、竜にかぎったことじゃない。お前は女全部の敵だ、阿呆」
「女!?」
 絶句した。ロックって、雌竜だったのか?
「はあ? なんだお前、知らなかったのか。ひぇーっ、お前ほんとに竜使いかよ。てめえの乗ってる竜が雄か雌かもわからないなんざ、信じられないね」
「うるさいな!」
 耳まで火照った。くやしいけれどパドの言うとおりだ。確かに竜の性別を判別するのは難しい、だが今までロックの名前と性格だけで雄だと決め付けていた。竜使い失格と言われても仕方ない。
「あーあ、不憫な竜だぜ、こんな男がマスターなんてよ。そうだ、俺が可愛がってやろうか。お前はこの前の純血がいるんだろ? あっちに乗っている間、この子は放っておくわけだろ? ちょうどいいじゃねえか」
「馬鹿言うな、なんであんたに! 第一あんたにだって竜がいるじゃないか」
 カッと叫ぶと、パドは自分の竜のたてがみを撫でながら言った。
「こいつはもう歳だ。引退していい歳なんだ。新しい竜を孵す余裕が無いから乗ってるんだ。本当は俺はもう休ませてやりたい。な、お前からリーダーに話してくれ、俺は俺でファリウスに話す。悪い話じゃないはずだ、そう思うだろ?」