28.スタミナ比べ#11

 後ろから竜の鳴き声が聞こえた。パドが追って来ている。ウィルは鐙を鳴らし加速した。白い道を横ぎり、さらに続く林を減速せずに一直線に走る。パドが後ろからわめいている。待て、やめろ、いいかげんしろ――いいかげんにして欲しいのはこっちだ。なんで追って来るんだ。
 林を抜けた。向こうにバルワ大河の支流。石がゴロゴロと続く河原を走ることはできない。やむを得ず減速した。それでも精一杯の駆け足で、支流をバチャバチャと渡る。そのさなか、後ろからパドの怒鳴り声が聞こえてきた。
「竜が死ぬぞ!」
 はっと振り返る。
 パドの竜が、林を抜けたところでへたり込んでいた。えっ、と思った次の瞬間、河を渡り終えたロックの体が沈んだ。ウィルを背に乗せたまま、前にどうっと倒れこむ。ヒュイーと小さな鳴き声がロックの口から漏れた。
 ウィルは呆然としていた。何が起こったのか、わからなかった。たった今ままで、あんなに力強く走っていたのに、なのに……
「小僧、この馬鹿野郎、ぐずぐずするな! 竜の口をこじ開けて水と食料を遣るんだ、今すぐだ!」
 パドの大声で我に返った。河の向こう岸で、彼はまさに自分の竜の口をこじ開け、皮袋からプランクトンの塊を掴みだし、竜の歯の間に突っ込んでいた。
 ロックの背から飛び降り、もどかしい手つきで皮袋を下ろす。ロックの前方に回りこんだ。瞼がほとんど閉じかかった隙間から、どろんとした瞳がのぞいていた。わずかに開いている口の隙間に手を掛け、うんとこじ開ける。ロックはされるがままだ。気味が悪いほどに。頭と指先が熱い、サムの言葉が耳元でガンガン鳴っている――『多くの乗り手たちが、自分の竜が突然脚を止め、そのまま目を閉じて地面に倒れてから、やっと取り返しがつかない過ちに気づいた』
 ――ロックがごくりと喉を鳴らし、突っ込んだ食料を呑んだ。水袋いっぱいの水も飲み干した。重く垂れていた瞼が少しづつ持ち上がり、瞳に力が戻ってきた。
「ロック、大丈夫か? 大丈夫だよな?」
 ごめんな、と頭を撫でているところへ、バシャバシャと水音が聞こえた。パドが真冬の河を、膝まで水に浸かり、こっちに渡ってきたのだ。彼は「ひぇーっ、冷てぇーっ」と大騒ぎしながら河を渡り終え、あんがいケロっとした顔でやって来た。
「落ち着いたか? どれ、見せてみろ――うん、もう心配ない」
「あんたの竜は?」
「俺はぎりぎりで止めたからな。そのうち回復するが。お前は半日は動くなよ。このまま夜まで休めや。無理させるな、可哀想によぅ」
 言いながら、ロックの頭をウィルがしたよりもっと丁寧に撫でた。「まったくひでぇご主人様だ、こんな奴より俺が可愛がってやる、そのほうがお前だっていいよなあ?」と繰り返しながら。