28.スタミナ比べ#6

 なにが卑怯なもんか。いい気味だ。「ロック、行くぞ」と促し、振り返らずに上へ駆けた。まさか取り返しに来るとも思わないが、さっさと片付けてしまおう。
 丘を登りきったところが第四ポイントだった。平らに広がる台地、数十リール先から緑が砂の地に切り替わる。袋からポールを取り出し座標を確認した。どんぴしゃり、誤差の範囲内に入っている。ウィルはさらに場所を移し、誤差ゼロの地点にポールをセットした。どうせ来たんだ、仕事はきっちりやりたい。
 ポールが完全に土に埋まり動作が止まったところで、ポール探知機をホルダーから取り出し見た。五つの光点が、ひとつの円周上に等間隔で並んでいる。このうち四つはセットできている。半分やりとげたんだ。
「半分かあ」
 なんとなく口に出し、改めて思った。半分かあ。あと半分。まだ半分。残り四つのうち二つは、たった今そうしたようにルロウの竜使いと戦って奪わなければならない。
 走りづめだったロックを座らせ、ウィルは休憩することにした。ポールは首尾よく取り返したし、見晴らしは最高、今はゆっくり体を伸ばそう。袋から食料とミードを取り出し、遅い朝食を採った。真夜中から水すら飲まずに走りづめだったんだ。すごく美味い。
 丘の下を眺め見た。よく一気に登ってきたなと思うくらい急な斜面だ。エヴィーでは無理だったろう。軽く地を蹴って飛びこめば低地まで落ちてしまいそうなほど、ずっと下まで遮るものが無い。
 ルロウの竜使いと竜の探した。どこに行ったのか、姿が見えない。あきらめて帰ったのか? いやその前に無事だろうか? あの竜も――どこまで落ちたのか。骨を折ったりしなかっただろうか。あの男は癪にさわるが、怪我したらいい気味だと思うほど俺は捻じ曲がってない。ふとラタの言葉を思い出した。『あたし達、こんなふうに争わなくたって……』
 ぶるぶる首を振った。しかたないじゃないか。話し合ってわかる相手じゃないんだ。ポールを盗んだ、森の木を伐った、森に火を点けた奴らなんだ。力で思いしらせるしかないんだ。
 長い休憩を追え、よっと立ち上がった。ロックがブフッと鼻を鳴らす。もう体力が回復したらしい。ほんとにタフな竜だ。
 その背に乗り、丘を下った。斜面が急すぎて、ゆっくりとは下れない、落ちようとする力に逆らわず素晴らしい速さで一気に駆け下った。一万リールほど南西方向へ下り、斜面がなだらかになったところで進路を南へ取る。このまま進めば宿泊テントだ。あの男に滅茶苦茶にされた杭と針金を元に戻して、カピタルに帰ろう――
 ところが。おもしろくないことになった。
 あの男が例によって勝手に休憩していたのだ。竈に火を起こし、鍋に顔を突っ込んでなにかを食っている。もちろん杭も針金も散らかったままだ。遠くから男と竜を見咎め、猛然と駆け寄ったウィルに、男は鍋に口をつけたまま目だけこっちへ向けてしゃあしゃあと言った。
「お、えらくゆっくりだったな。ご苦労さん」