28.スタミナ比べ#7

「……あんた……なんでここを使ってるんだよ……」
 怒りで声がろくに出ない。男はけらけら笑っている。
「いやー、いいものを用意してくれたな。でかした。砂漠で野宿は慣れてるがここは勝手が違うからな。助かったぞ。食料までストックしてあるなんてよ、俺は涙が出たね、嬉しくて。ああ、ちっと興ざめだったのは、なんだあれ? ぐるぐる針金で囲って、そんなに『俺のモノだ』って言いたいのか? やめておけよ、あんなこと。ケツの穴が小せえ男なんざモテないぜ、小僧」
「あれはちゃんと理由があるんだ! 勝手に使うのはともかく、勝手にいじるなよ!」
 男はけろっと返した。
「ふーん、じゃあ勝手に使うのはいいんだな。じゃあこれからも勝手に使うぞ。ところで、理由って? あ、その前に下に降りろよ、小僧。見上げてると首が痛い」
 なんだかこんな相手に力むのが馬鹿らしくなってきた。ウィルは渋々ロックから降り、それでいて隣に座れという誘いを無視し、立ったまま答えた。
「カリフって獣がいるんだ。集団で狩りをして肉を喰う生き物。竜くらい大きい獣を狩っているところも見たことがある」
 正確にはブラウを狩っている『絵』を見たのだが、説明が面倒なので省略した。
 男の顔が引き締まった。どんなやつだ? 人間も襲うのか? 弱点はなんだ? 矢継ぎばやに聞かれた。ウィルは問われるまま答えた。大きさ、姿かたち、自分の父親が襲われたらしいこと、鏑弾は効かなかったが匂いには敏感らしいこと――。ルロウに肩入れなんかしたくないが、これだけは話が別だ。命に関わるのだから。
 男はますます厳しい顔をした。こんな真面目な顔ができるなら、はじめっからそうしてろと言いたい。
「そいつぁ知らなかった。今まではち合わせなかったのはツイてたが、用心が要るな。俺やシンはともかくレイリーは……」
「シン? レイリー? あと二人の竜使いの名前か?」
「おう。そのうち嫌でも会うだろうさ。今回の件で俺は外されるだろうから、次にお前の相手になるのはそのどっちかだ。シンでないといいな、小僧」
 男は変な笑いかたをした。どういう意味だか、わからない。
「そうそう、俺の名前を言ってなかった。パドってんだ。よろしくなぁ」
 大きい手をにゅっと出され、ウィルはまごついた。握手なんて、ガランとメイヤ・ファリウスすらしていないのに。後ずさり、首を振った。
「よろしくない。俺はあんたと仲良くする気なんか、ない。あんたは敵じゃないか」
「なにが敵だよ、同じ竜使いじゃねえか。あ、わかった、上から止められてるんだろう。心配するな、俺もだ。大丈夫だ」
 なにが大丈夫なのか、パドの理屈はさっぱりわからない。それでいて妙に説得力がある。ウィルは無理やりむすっとした顔をつくり、ロックに飛び乗った。ここから離れないとパドのペースに呑み込まれそうだった。