14.息子達 #2

「小屋を作ってる間だって、休憩のたびに様子を見に来てさ。見るだけならいいぜ。そのたんびに、俺を捕まえて、はやく結婚しろだの、子供が欲しくないかだの……」
 隣で聞いたハルが、ミードを吹きだしむせかえった。
「げほっ、……マカフィ、それ、気が早すぎない?」
「早いに決まってる。俺はまだ十八だぞ。俺が子供みたいなもんだぞ。馬鹿じゃねえか? けど、自分が俺くらいの時には、もう産んでたって言ってきかないんだ。適当に誤魔化してると、アリータだのネイシャンだの、勝手に相手の名前をあげだすしよ」
 今度は、ウィルがミードを吹き出す番だった。
「アリータ? ネイシャンだって!?」
「おう。何が悲しくて、物差しで俺のケツを引っ叩いた『先生』と結婚しなきゃならねえんだ。冗談じゃない。最後には、ラタの名前まで出してきやがった。お手上げだよ」
 ウィルもハルも、なんとなく薄ら笑うしかなかった。
 見境いなし、という言葉が頭をよぎる。ウィルは、新月祭の夜、アリータとネイシャンが、エマおばさんと並んでいた自分を避けて行ったことを思い出した。きっと、おばさんは、あっちでもこっちでも「見境いなく」お節介をして回っているに違いない。
 ブツブツ言うマカフィに、適当にあいづちを打っていると、喧騒をかきわけて「おーい」という呼び声が聞こえてきた。野太い、人の良さそうな声。グレズリーだ。肩に、口を紐でゆるく縛った皮袋を下げている。談笑する大人たちに挨拶し、こちらにやって来た。ハルが、小屋が完成するから呼んだんだよ、と言った。
「こんばんは。よお、マカフィ。立派な小屋を、見せてもらいに来たぞ」
 グレズリーは、ほっほう!と声を上げた。本当に立派だな、こりゃあ、と何度もうなずく。
「あれだけ大きけりゃあ、シーサが入っても余裕だろう。さあ、お前さんの息子殿を連れてきたぞ。未来の家と先輩に、ご対面させてみるかな」 
 彼は、皮袋を地面に降ろし、口紐をほどいた。
 と、モソモソ、と中で動いていたものが、ピョイっと勢いよく顔を出した。小さな角に、黒い瞳
「シーサ!」
「うわ! チビ竜じゃんか!」
 マカフィが叫んだ。
「可愛いな。パルヴィスだよな? パルヴィスの幼竜なんて、俺、初めて見たぜ――あ、こら、待て!」
 シーサが袋から飛び出した。マカフィの股の下をくぐり、林立する大人たちの脚の間を疾風みたいにすり抜け、一直線に小屋へ突進していってしまった。
 あまりの速さに、ウィルもハルもマカフィも、ぽかんとするしかなかった。グレズリーだけが、そらみたことかという顔で笑っている。
「目が見えるようになったとたん、あれだからな。まさに混じりけなしのパルヴィスだ。本当に先が楽しみだ……」