14.息子達 #3

 シーサは小屋の入り口へ突っ込んで行った、かと思うとすごいスピードで出てきて、小屋の周りをグルグル走りだした。おもいきり走るのが、嬉しくてしょうがないというふうに。エヴィーが、なにごとかと首だけ出した窓の下を、何度も何度もビュンビュン駆け抜けていく。
 はじめは呆気に取られていた大人たちも、暴走する仔竜を見て、手をたたき囃(はや)しだした。調子に乗ったマカフィが、赤い顔をしてケラケラ笑いながら、シーサのあとを追いかける。完全な酔っ払いだ。
 その様子を眺めていたハルが、半分ひとりごとのように言った。
「マカフィって、明るくなったよね……ていうか、前のマカフィに戻ったよね。森を見つけてから、なんだか、いきいきしている」
「うん、そういえば」
 ウィルは、うなずいた。
 十四歳の騎乗試験に失敗したマカフィは、その日を境に一変した。年上にも年下にも冗談ばかり言う、悪ふざけもたっぷりする男の子だったのに、軽口のひとつも聞けなくなってしまったのだ。そのことを、二人はずっと心配していた。けれど、子供の頃からの夢を、そして周囲の期待を果たせなかった彼に、どんな言葉をかければいいだろう? 慰めることもできない、励ますこともできない。大人たちが「時が解決してくれる」と言うのを、信じるしかなかった。
 森が見つからなかったとしても、きっとマカフィは、時間をかけて、今の姿を取り戻しただろう。でも、その「時」が早くやってきて、良かった。ウィルは、そう思った。
 横にいるグレズリーが、目を細めて言った。
「うん、良かったな。彼の親父殿も、喜んでるだろうよ。息子が試験に失敗したときのことを、気に掛けて逝ったからな……」
 グレズリーは、マカフィの父親と、仲が良かったらしかった。ちょうど、サムとレオン・セルゲイのように。竜の管理をきりもりする仕事なのだから、自然の流れだろう。サムも生前、頼りになる人だと言ったことがある。
 もしかしたらグレズリーは、セルゲイがサムの遺言を受け取ったように、マカフィの父親の遺言を受けたのかもしれない。息子のことを、くれぐれも頼むと――
 ウィルは我知らず、ハルの横顔に目を走らせた。
 サムの遺言を、思い出しながら。
 ハルが試験を避けているのは、もしかしたら、マカフィの落ち込みようを見ていたからだろうか。そのマカフィも、今はこうして楽しげに仕事をして、大人達から頼りにされている。竜使いには、なれなかったけれど。
 試験に成功しても、失敗しても、ハルは、ハルだ。
 そう伝えられる「時」が、いつか来て欲しい。できれば、早く……。