13.純血 #8

 ウィルは、彼の言葉を確かめるように、ひとり呟いた。
「大きさで決まるわけじゃない……じゃあ、ブラウが一番強い、とは、限らないのか……森で一番強い生き物って、なんなんだろう」
 ハルも首をかしげた。
「一番強い生き物か……簡単には、決められないんじゃない?」
「まあ、そうだけど。でも、亜種と純血種を比べたら、純血種のほうがパワーがあるんだろう。そういうふうに、二つを比べてこっちのほうが強い、というのをやっていけば、一番強い生き物が残るんじゃないかと思ってさ」
「でも、グレズリーさんは言ってたよ。純血種のパワーは、人間にとって都合がいいだけの『力』だって。生きていく『力』は、亜種のほうが高いのかもしれないって。だから、今まで絶対に、純血種の卵は孵さなかったんだって」
 ふーん、と言いながら、ウィルは木箱の中のヒナを見つめた。
 人間の都合にあわせて、産まれた竜。
 そうだとしたら、自分は、何があっても、この竜を大事にしなければ。守ってやらなければ――。ウィルは、なんだか、息子が産まれたような気がしてきた。ヒナのしわくちゃの皮膚も、キュイーと鳴きつづける声も、すごく可愛く思えてくる。
 小さな角と突起のある頭を、なでてやろうと、人差し指を伸ばした。ヒナは、なあに?という表情で頭をくるくる廻し、ウィルの指の感触を楽しんでいる――と思ったら、その口の端に指が触れるやいなや、パクン!とくわえてしまった。
「うわ!」
 反射的に引っ込めようとした指を、ヒナはジュウジュウすごい音をたてて、しゃぶりだした。
「うわーっ、うわ、やめろ! 放せ!」
 ウィルはわめいた。泣きたいくらいくすぐったい。
「あっ! こら、いけない子だなあ、放しなさい!」
 横からハルが加勢したが、クスクス笑っている。放しなさいといって放す『子』のわけがない。
 大騒ぎしていると、竜の乳が入った缶をぶら下げ、グレズリーが帰ってきた。
「おーい、どうした? ……ああ、指を出したのか。そんなことしたら、吸われるに決まっとろうが。ちょいと待ってろ」
 彼は慣れた様子で、ヒナの頭を後ろからつかみ、うんと後ろにそらせた。むきだしになったヒナの首筋を、野太い人差し指で、下から上へくすぐるように撫でる。するとヒナは、我慢できないというふうに口をアーンと開け、やっとウィルの指を解放してくれた。
「ほい、いい子だな。これ飲んで、眠りな」
 グレズリーは言って、開いたヒナの口に、白い乳がたっぷり入った哺乳瓶の先を突っ込んだ。
 ヒナが、すごい勢いで乳を飲み始めた。もう他のことはいっさい知りません、という様子だ。