13.純血 #7

「考えてある。産まれたら、話すよ」
 ウィルは言って、にやっと笑った。たまには、自分だって内緒ごとをつくってみたい。
 それからは、三人息をひそめ、卵が孵るときを待った。
 どれほど時がたっただろう。ウィルには、わからなかった。卵はゆっくり、けれど着実に、姿を変えていった。
 コチ、コチ、と少しづつ広がっていくヒビ割れ、それが卵の半分以上まで広がったとき、カチン、という異質な音ともに殻の一端が盛り上がり、わずかな隙間から小さな小さな角の先端が突き出した。勢いづくように暴れる角の先は、隙間をグイグイおし広げ、その向こうに黒い瞳が見えた、次の瞬間、ブルブルっと振動した卵がくるんと半回転したと同時に殻はパクっと割れ、ここどこ?といいたげなヒナが、殻の半分を頭に載せたままついに産まれたのだった。
「産まれた!」
「産まれたよ!」
 ウィルもハルも、思わず声を上げた。ヒナは、黒い瞳を泳がせ、口を大きく開けて、キュイーと鳴いた。殻の中にいたときとは全然違う、元気な、力強い声で。
 頭に乗った卵の殻を、そっと取りのけながら、ウィルはヒナの様子を観察した。
「なんか……思ったより」
 可愛くないな、と言いかけて、我慢した。孵ったばかりのヒナは、しわくちゃで、濡れたようにヌルヌルしていたのだ。
 言いたいことがわかったのか、ハルが笑って答えた。
「すぐに乾くよ。見て、この目……可愛いなあ」
 ヒナの瞳は、黒くて大きくて、クルリの目に似ていた。まだよく見えないのか、いっぱいに見開いたまま、頭を左右に振っている。
 黙って一部始終を見守っていたグレズリーが、うなった。
「ほおーん、やっぱり、亜種とは違うなあ。ハル、わかるか? 頭と体と脚のバランスが、全然違うだろう。首も短いし、目も、オーエディエンや亜種より、顔の前に付いている。こりゃあ、先が楽しみだ」
「はい。それに、ずいぶん小さいですね」
 ハルの答えに、ウィルはふと疑問がわいて、グレズリーに尋ねた。
「純血種はすごいパワーを秘めている、はずなんですよね。力があるということは、大きい竜だと思っていたんだけど……こんなに小さくて、大丈夫なのかな」
「心配いらん。すぐに、呆れるほどデカくなるさ」
 グレズリーは、腹を揺すって笑った。
「ウィリアム、難しい理屈は言わんが、覚えておくといい。パワーを秘めている生き物は、意外と小さいもんだ。体の大小で、決めつけないことだ。森に入るなら、なおさら、だな――さあて、乳を取ってこよう」
 言って、彼は小屋を出て行った。開けた扉から、涼しい風がさっと吹きこんだ。