14.息子達 #5

 もう一組、親子連れを発見した。プラリだ。
 大河へ向かう雑木林で、三日に一度は見かけるプラリ。いつも尻尾で枝にぶら下がり、プラプラ揺れているのだが、ある日、プラプラが七つに増えていて、ウィルは仰天した。
 端っこのプラプラはいつものプラリで、残りは子供らしい。ずっと小さく、白い毛並みでふわふわ可愛くて、でもやっぱりプラプラしている。あとひとつで、エマおばさんの記録に並ぶ子だくさんだ。
 七匹のプラリは仲良く並び、下を通るエヴィーとウィルを、おもいおもいに揺れながら見物している。なんだか、落ち着かない。もっとも、もしクルリみたいに何かをぶつけてくる奴らだったら、えらい騒ぎになるところだ。見物されるだけで済んで良かった。
 河をさかのぼる途中でも、新しい生き物を見つけた。
 さかのぼっていくにつれ、濃い緑色だった河の水は次第に薄くなり、ところどころ川底の石が見えるようになってきた。川幅も石河原も、徐々に狭くなり、角ばった大きな石が増えてくる。流れの中央に、木や草がぽこりと茂っている中州が目に付いた。
 中州には、大きな白い羽と嘴をした鳥達が、群れになり宿っていた。
 森の中で見る鳥とはちょっと様子が違う。なにより、大きいし、脚先が妙に平べったい。ときどき、どこからか飛んで来た鳥が、川面すれすれに滑空してきて群に加わったり、群から数羽が水しぶきをあげながら飛び立ったりしている。虫が群れるのは知っていたけれど、鳥も群をつくるとは知らなかった。

 そんなふうに、新しい生き物と出会いながら、二度目の新月祭の日を迎えた。

 ウィルは今日も、ぎりぎりの時刻まで探索するつもりだ。
 エヴィーも少しづつ石河原に慣れ、下流の河原ならば、走れるようになっていた。飽きるほど往復した景色を、軽快に飛ばしていく。バーキン老人にもらった帽子は、しまったままだ。
 太陽が南天の真ん中に上ったところで、いったん雑木林の中へ入り、休憩をとる。
 ここ数日、ミードは持参していない。こう暑くなってくると、昼間はあっさりしたものを飲みたい。皮袋いっぱいに詰めてきた精製水を、エヴィーと分けあい、帽子を頭にのせてしばらく休む。
 午後からは、スピードを落とし、ゆっくりと進んだ。
 中州が点在する中流域にさしかかった。鳥たちが、川面を飛びわたっている。この光景にも、すっかり慣れてきた。
 あと半日も進めば、もっと浅い上流、エヴィーでも対岸へ渡れる所へと、たどりつけそうだ。感覚的なものだが、ウィルはそう予感した。
 それに、もっと変わった生き物とも会えるだろう。
 辞書を読みふけっているハルが、水の中にも生き物がいるはずだよ、と言っていた。ハルは、やけにあっさりした細長い線の中に、ギョロっとした眼を描いて、「魚」という名前を教えてくれた。手も足も、耳も鼻もない、へんてこな生き物。しかも、水の中で生きているなんて、不思議の塊だ。上流へ行けば、水が澄んで、探せるようになるだろう。「魚」がどんなものか、見つけたら、ハルの想像が正しかったかどうか、報告しないと。
 水の色はますます薄くなり、川幅も狭まってきた。ときおり、エヴィーから降りて浅そうなところを観察すると、黒い影が水の中を走っているのが見える。あれが、「魚」だろうか……。もう少しで、エヴィーでも渡れる浅瀬が見つかりそうだ。

イメージ 1