16.雨の日々#7

 数日後、完成したシールド・ポールを取りに来いという連絡が、ソディックから入った。
 勇んで訪ねると、彼のテントは物であふれかえり、家の主が座る場所すら無い。雨続きで、外に出しておいた荷物の山を、中へ入れたのだ。
「どこで寝るんですか」
 思わず聞くと、彼は、両脇のテント支柱に結び付けられ宙に浮いている、大きな布を指差した。どうやら、その吊り下げ布をベッド代わりにするらしい。ぷらぷら揺れるだろうに、気持ち悪くならないんだろうか。
 ソディックは、黒光りする金属筒を一本くれた。両手で握れるほどの太さで、銃の半分くらいの長さ。そのわりには、結構重い。
「これが、シールド・ポール。地面に突き立てると、あとは自動で地面を掘り、根を張る。埋める座標は、ここ」
 手渡されたメモ紙には、桁の多い数字が4段、並んでいる。
 金属筒の上部に、パネルがあり、そこにも数字が4段並んでいた。メモ紙の数字とは、違う値だ。
「この値が一致する地点を探し、ポールをセットする。できるかぎり地盤の固い所を選んで。誤差20の範囲内ならば、正常に作動するはず」
 説明が終わると、ソディックくるりと背を向けた。もう用事は済んだから帰れ、という意味らしい。あっさりしたものだ……もう慣れたけれど。
 ポールをもらい、いったん自分のテントへ持ち帰る。しとしと振り続ける雨の中、ウィルはその足で、グレズリーの小屋へ向かった。
 成竜の「小屋」は、満員御礼だ。窪穴のすべてに、オーエディエン竜がデンと座っていた。彼らの上に張られている撥水布は、どれも連日の雨ですっかり濡れ、重く垂れ下がった真ん中から水がぼたぼた落ちている。
 グレズリーのテントの横に、大きな撥水布を何重も張った共同小屋があった。雨季に入る直前に、そこだけ土を盛り固め、作ったのだ。孵化して間もない――といっても、すでに一人で抱えられないほどの大きさの――幼竜達が、学校の子供達よろしく集まっている。
 その輪の中から、茶色いものがすっ飛んで来た。 
 シーサだ。雨も泥もおかまいなしにダーッと走りドーンとぶつかってきた。ウィルの服が泥まみれになる……これにも、もう慣れた。
 脚にまとわりついてくるシーサとともに、共同小屋の下へ行く。先生よろしくお守(も)りをしていたハルが、にこにこして迎えてくれた。
「シーサが、そわそわしてたよ。ウィルが来るって、わかってたのかもね」
「嬉しいけど、今日は一段とスゴイな。泥の塊かと思った」
 ウィルが苦笑いすると、ハルは成竜たちが鎮座する窪穴を指差した。穴は水が集まり、どろどろの土でいっぱいだ。