16.雨の日々#12

 二・三リール進んで、後ろからバキバキという音がするので、振り返って驚いた。ロックが、大人の背丈ほどの木を踏みしだき、森の中まで追ってきたのだ。まだ繊細な幼木や下草が、巨体に弾かれ折れ曲がり、砕かれている。ウィルは慌てて命令した。
「ロック、止まれ! そこまで!」
 竜は耳ひれをピクリと上げたが、すぐ次の一歩を踏み出した。バキバキ、と次の破壊が始まる。
「こら! 駄目だったら! えーと・・・・・・すぐ戻るから。いい仔だから。頼むよ」
 ロックの脚が、止まった。首をぐうっと突き出し、右へ傾ける。ウィルは思わず、笑ってしまった。なんでぇ?……といった顔だ。しかし、「すぐ戻る」に安心したのか「いい仔だから」に気をよくしたのか、ロックはおとなしくなった。
 ほっと胸を撫でおろし、ポールの準備に戻る。
 北西に十数歩進んだとろこで、誤差ゼロの座標地点を見つけた。柔らかい下草が生えているだけだから、すぐ設置できる。
 手袋をはめた手で下草をむしると、茶色い土が見えた。水を含んで、柔らかい。ソディックは固い地盤がいいと言っていたが、長雨なんだから仕方ない。
 いよいよ、ポールを埋めるときが来た。
 といっても、パネルが付いた方を上にして、真っ直ぐ地面に突き立て、ポール上部のボタンを押すだけだ。少し緊張しながら、押した。
 フィー……というかすかな音と振動が、ポールの内側から伝わってきた。
 と同時に、ポールの下で異変が起きた。ツルツルに見えていた表面がバクッ割れ、小さい金属アームが何本も現れ、クルクル動いている。アームが円を描くようにして、土をポールの外側へ掻き出しているのだ。ポール全体が、静かに、土へ潜(もぐ)り始めた。膝をついて支えているウィルの手の中を、金属筒が非常にゆっくりと、下へ沈んでいく。ポールの周りに、描き出された細かい土がもくもくと盛り上がり、小山のようになってきた。
 しゃがんだ姿勢で、じっと支え続けた。自分の鼓動は数え忘れたが、千は軽く越したろうという頃、やっと終わりが見えてきた。ポールはほとんど地に潜り、土の小山からパネルだけが飛び出している。そうえいば、動作を止める方法を聞いていなかった。これ以上沈んだら、土に隠れちまうぞ――と思ったギリギリの所で、フィーという音が止まった。さすが、ソディックだ。
 土が付いた手をはたき合わせ、ウィルは立ち上がった。
 ちゃんと動作しているかどうか、それはソディックにしかわからない。自分の任務はここまでだ。
 思ったより早く片付いた。さあ帰ろう、と森の入り口を見やる。
 長い間じっと「いい仔」にしていたロックが、待ってましたといわんばかりに、背翼を広げバタバタとはためかせた。