17.秘密#1

 真夜中の訪問者が誰か、ハルを問い詰めることができたのは、次の日の昼だった。
 テントに帰り着いたウィルを、ハルはブーツを脱げだの上着を貸せだのとせわしなく世話をやいて誤魔化し、寝袋へ押し込むようにして寝かしつけてしまったのだ。質問する暇もなかった。エマおばさん級の手腕だ。
 ウィルが目覚めたのは次の日の昼過ぎで、ハルはとっくに仕事へ出かけていた。
 ミシミシいう体をほぐしがてら、グレズリーの小屋まで歩いた。
 雨季は終わり、夏の太陽が厳しく照り付けている。乾き残った水溜りも、そのうち全て消えるだろう。
 小屋へ着くと、例によってシーサがすっ飛んで来た。ハルの姿は見えない。
 窪穴で餌やりをしていたグレズリーが、顔を上げた。
「よお、昨日はご苦労さん。ロックは、わしが柵へ戻しておいたぞ。ソディックから連絡があってな」
「あ!……すみません、助かりました」
 そういえば、村外れにロックを繋ぎっぱなしだった。
 信じられないくらいロックは上機嫌だったと、グレズリーは言った。まるで別の竜みたいだった、と。それから、ハルの行き先を教えてくれた。
「フィブリンを、返しに行ったんだが――走れば追いつけるぞ」
 礼を言って、ウィルはレオン・セルゲイのテントへ向かい走った。シーサが、ぴったり後から付いて来る。
 ほどなく、こちらに尾を向けのっそりと歩いて行くオーエディエン竜を見つけた。フィブリンだ。その少し前を、ハルが片脚を軽く引きずるいつもの歩き方で、先導していた。
 追いついたウィルに、ハルは軽く手を挙げた。
「今日は休んだの? あれ、ひょっとしてウィル、今まで寝てた?」
 寝てた、と答えるかわりに、ウィルはハルの脚を軽く見やり、質問した。
「レオン・セルゲイのテントまで行くんだろう。乗ったほうが早いんじゃないか?」
「乗るって、フィブリンに僕が? そんなことしないよ。僕の竜じゃないもの」
 ハルはきっぱりと首を横に振った。オーエディエン竜くらい誰が乗ってもいいのに、ハルはこういうことには頑固だった。
 セルゲイのテントは東のはずれにある。まだ距離があった。並んで歩く二人の後ろで、シーサがフィブリンの巨体の下、四本の脚が交差する空間を、ジグザグに走り回り遊びだした。
「シーサったら! またそんな危ない遊びをして。困った仔だな」
 笑うハルの横顔を見ながら、ウィルは昨晩のことを思い出していた。
 学校の方角へ歩み去った、小柄な影。あれは、ママ先生だった。見間違えたりはしない。十四年間、ずっと見続けてきたのだから。あんな夜中に何の用で来たのか――そう、ハルが見送っていたのだから、先生は自分達に用事があって、来たはずだった。