16.雨の日々#5

「背の話? 伸びたよ、ウィルは。誕生日のちょっと前には、僕を追い越してた。気づいてなかったの」
「意識してなかったな。けど先生に言われて、思いだした。俺、なかなか伸びなくて、ハルのほうが早くてさ、今だから言うけど、前はけっこう気にしてた」
 へえ、とハルが言って、手をぽんと鳴らした。
「あ、そうかもね。たしかチビって呼ばれて、ウィル、ラタと大喧嘩したことがあった」
「はあ? ハル、そんなこと覚えてるのか」
「そりゃね。たいていは、僕が間にはいれば収まるのに、あのときだけは全然だめだったんだ。ラタは怒鳴り散らすし、マカフィたちは囃すし、小さい子たちは泣きだすし、教室はぐちゃぐちゃで、それはもう――って、ウィル、覚えてないの?」
 無言で頭を掻きむしるウィルに、ハルは口をあけて笑った。
「なんで忘れちゃうかなあ」
「ラタとのケンカなんて、いつものことだからさ」
「でも、あのケンカは特別だよ。だって、あれから、ウィルはラタの相手をしなくなった」
「前からだろう」
 ハルは首を振った。
「違う。僕は覚えてる。それまでは、ウィルはどんな無茶苦茶を言われても、なにか言い返してた。それでもラタが黙らないと、手を出してた。けど、あれいらい、無視することのほうが多くなったよ」
 そうかもしれない。
 それにしても、ママといいハルといい、本人が覚えてないことを、なんで他人はこうも覚えているんだろうか。ウィルはなかばヤケになって言った。
「大人になったんだろ」
 ハルは笑いながら首をかしげていた。賛成ではないらしい。
「そういうの、大人っていうのかなあ……僕は、他のやり方があると思うけどな。気に入らない相手のことを無視するのって、なんていうか、自分はそれでいいとしてもさ……」
 ハルは言葉を探すように、カップをゆらゆら揺らした。
「……みんながそうし始めたら、気まずくなると思わない? カピタルなんて、たかだか千人の、狭い村なんだから。居心地悪くなるよ、きっと」
 狭い村なんだから、というところで、ウィルはふと思い出した。
 空から見降ろしたカピタルは、本当にちっぽけな村だった。砂漠の果ての、森のふちにしがみついている、吹けば飛びそうな人間の村。そのなかで、気に入らない者同士が喧嘩したり無視したりしあっていたら――