17.秘密#6

 泊り駆けに必要な準備物をあれこれ考えながら村に帰ると、ハルとマカフィがテントの前で立ち話をしていた。
 ハルが、分厚い本のページをしきりに繰っている。辞書だ。
「――お? よお竜使い、お疲れさん」
 こちらに気がついたマカフィが、兄貴気取りで言って笑った。ますます日焼けした黒い顔に、白い歯が並んでいる。
 何してるんだ? というウィルの問いに、マカフィはもったいぶった。
「ちょっと、調べたいことがあってよ。ハルに相談してたんだ。お前はいいよ、聞いてもわかんねぇだろ」
 はなっからあてにしていない、という言いぐさだ。
 ハルが辞書の一ページを開いて、何かの単語を指し示した。
「ほら、これだよ。成人の日ガランが言っていたんだ。いい言葉だと思わない?」
 マカフィがのぞき込み、ふんふんと読んで「うん、いいな」とうなずいた。
 じりじりとやりとりを聞いていたウィルは、我慢の限界だった。目の前で内緒の話なんかするな!
「ハル、何の話しだよ。秘密なのか? 俺には言えないことか?」
 固い声に、二人が振りかえった。マカフィは、からかうような意地悪な笑い顔で、しらっとしている。ハルは困った表情で、首を振った。
「別に秘密じゃない……。マカフィが、辞書で調べて欲しいことがあるっていうから、手伝っただけだよ。見つけて欲しい言葉があるって」
 ハルが指差した一ページには、単語がびっしり並んでいる。その中のどれが「いい言葉」なのか、さっぱりわからない。マカフィは、説明が面倒くさいというふうに首を掻いている。
 ハルは、彼の様子をちらりと見て軽いため息をついた。
「ウィル、ここを見て。『開拓者』って書いてあるだろう。新しい土地を調べて、切り開いて、人間が住めるようにする、そうする人達のことだよ。マカフィが今の自分達にぴったりの言葉を探しているっていうから、僕、成人の日にガランが言ってた言葉を思い出して、調べてみたんだ」
 そういえば、ガランがそんなことを言っていた気がする。今日は新しい開拓者が二人も生まれた――とかなんとか。
「ふーん。それにしてもマカフィ、なんでそんなこと?」
 学校時代ウィルに負けず劣らず本嫌いだったマカフィが、単語を調べてくれだなんて妙な話しだった。
 しかしマカフィは、エヘンと咳払いし手を振った。
「まあ、いろいろと事情があってよ。まだ人には話せないんだ、悪いな、ウィル。じゃあな、ハル。頼もしかったぜ」