17.秘密#10

「他にもいろいろ話したけれど」
「何を?」
「……どうして知りたいの、ウィリアム」
「すみません。気を悪くされたなら、謝りますます」
「謝らなくていいから、なぜ知りたいかを、教えてちょうだい」
 声は穏やかなままだったが、答えをはぐらかせる聞きかたではなかった。ウィルはどう言ったものかとあれこれ考えを巡らせた。しかしマリーを正面にして、器用な嘘はつけそうになかった。
「ハルが、俺に嘘をついているんです」
「嘘?」
「先生が来た日、何か特別なことを話し合ったはずなのに、俺には言わないんだ」
「そうする理由があるのでしょう」
「俺も言いました。話したくないならいい、それなら話せない理由を言えよって。けど、断わられた」
「だから、私に聞くのですか」
「俺だってハルから直接聞きたいです。でも、あいつは言わない。きっと、絶対に言わないだろう。そういう奴だってことは俺が一番よく知ってる」
「だったら、そのままのハルを受け止めてあげなさい」
「どうして。俺はハルに嘘なんかつかない!」
 マリーが小さく溜息をついた。
「ウィリアム、『嘘』と『黙っていること』とは違うわよ。似たようなものだけれど、でもそのちょっとの違いが、お互いの気持ちをつなぎとめることがある。だから、むやみに相手を嘘つき呼ばわりしてはいけません」
 マリーは子供を諭すように言ったが、ウィルの苛立ちはおさまらなかった。それどころか、ますます募った。
 結局、ママも、ハルと二人して、自分をはぐらかすつもりなんだ。そう思った。なぜ、俺には話してくれないんだ、俺が頼りないからか? ハルのほうが頼りになるからか? そうなのか?
 そうだ、これだ。ウィルははっきりと自覚した。ハルが内緒ごとを作るのも、その相手が俺じゃないのも、まだ我慢できる。けど、これだけは――俺がハルより頼りないから除け者にされるだなんて、それだけは、我慢できないんだ。
 マリーは胸の前で、手を握り合わせて言った。
「あなたたちは兄弟同然に育ってきた、だからお互いのことを全部知っていて当然だと思うのでしょうね。けれど、いつかは、誰だって、自分だけの秘密をもつようになるの。あなたたちは、そういう歳になったのよ。こう考えることはできせんか?」
 違う。ウィルは思った。
 もしハルが自分ひとりでかかえている秘密なら、まだいい。自分にだって、ハルにすら知られたくない感情や考えは、ある。けれど、ハルが隠しているのは、ハル自身のことじゃない。さらに、その秘密を知っているのは、ハルだけじゃない。ただ俺ひとり、秘密を隠されているんだ。みんなで示し合わせて。
「先生、それは先生も、俺には言わないってことですね」
 固い声で言った。