43.メルトダウン#6

 眼下に広がる眺め。どこまでも続く森の緑。
 はるか遠くに光の筋がきらめき蛇行している。ああ、あれはバルワ大河だ。ここから見えるなんて。南東のけわしかった山岳地帯、その頂(いただき)に薄い雲が掛かっている。東の伸びやかな丘陵地帯。ここからは蒼みがかった一面の草原に見える。土地はおだやかにうねり、森の裾野を天に向かい広げ見せている。風に吹かれながら、いろいろな気持ちを抱いて、あそこを何度も往復した。西を振り返る。まだ未調査の深い緑が広がっている。単調に見えるけれど、その懐(ふところ)にはまだ見知らぬ生き物たちがたくさんいるだろう。たくさん見つけたい。まだ知らないところがあるって、素晴らしいとことだ。そして、古木が群生する北の森。あそこをガランの森と呼ぼうか。一番ふさわしい名前だ。その先には、カリフと対決した北の果ての荒地。赤茶けた土地がうっすらと見える。‘やつ’は、どうしてるかな。生きてるだろうか。生きていて欲しい。
 ――そこで、やっと我に返った。
 北東の方角、自分にほど近い位置に、一本の柱が生えている。
 ウィルの胴回りほどある、シールド・ポールの二倍ほどの高さの、銀色の、柱。中天に昇った太陽の陽射し照り返し、眩しいくらいに光っている。ウィルは銃を構えた。これか!
 撃ち放つ。一発目、かすった、二発目、三発目、砕けない、ビシッという音ともに銀色の表皮に穴だけが空く、四発、五発、銃声が重なる、シンが横に並んでいた、標的に向かい無茶苦茶に連射する、柱に穴がどんどん増える、繋がってゆく、ついに銀色の表皮が紙のように破けはがれ落ちた、その跡に細い細い灯心のような棒が残された、あれこそが自分達を阻む装置の先端!――潰せ、破壊しろ、全ての弾を掛けて撃ち砕け、灯心は次々に撃ち抜かれその背を縮めてゆく、そしてついに、ウィルが最後に放った一発が、床にしがみつくように残った最後の残骸を吹き飛ばした。
 またどうっと突風が吹いた。
 硝煙も、バラバラに砕けた残骸も、一気にさらわれ西の森の上空へ舞い散って行った。
 シンと顔を見合わせる。
 彼は呆けたような顔をしていた。きっといま、俺も、おんなじ顔をしてる。
「……これで」
「……ああ」
 言葉はそれだけでよかった。じゅうぶん通じた。
 銃を降ろし、二人、どちらともなく、太陽を見上げた。これで。勝てるはずだ。と――
「あ……あれは?」
 ウィルが指差した先、太陽の右の空に、大きなモノが浮かんでいた。というより、穴が空いていた。いや、穴じゃない――白くもない、黒くもない、あの色――
 シンの低い声。
「あの色……君も見覚えがあるだろう、十日前だ、虚粒子シールドの色だ、あれは彼らだ、彼らが『船』をシールドで覆っているんだ、この意味がわかるか? ――ソディック!」
 コムに向かい怒鳴り付けたシンの声は震えていた。
ソディック、聞こえるか! シールドは? まだ作動しないのか!?」