43.メルトダウン#7
ソディックの一声が返って来た。
「作動させた」
森の果てに目を凝らす。ウィルは南を。シンは北を。
ああ、確かに。360度、森のふちをぐるりと囲み、あの色がせり上がってきた。白でも黒でもない、光でも闇でもない色。ゆっくりと、じりじりと。
風の音ばかりが、騒がしく鳴き渡る。
風?
十日前のテスト時には、風もなにもかも止んで、ひっそりとしていたのに……
いや、風じゃない――この音はなんだろう――いいや、この感覚はなんだろう――
「作動させた」
森の果てに目を凝らす。ウィルは南を。シンは北を。
ああ、確かに。360度、森のふちをぐるりと囲み、あの色がせり上がってきた。白でも黒でもない、光でも闇でもない色。ゆっくりと、じりじりと。
風の音ばかりが、騒がしく鳴き渡る。
風?
十日前のテスト時には、風もなにもかも止んで、ひっそりとしていたのに……
いや、風じゃない――この音はなんだろう――いいや、この感覚はなんだろう――
聞こえる。
エヴィーが、シーサが、全ての竜が、雄々しく天に向かい吼えている。
エヴィーが、シーサが、全ての竜が、雄々しく天に向かい吼えている。
見える。
緑成す樹々の、草花の、ひとつひとつの葉脈が、力強く浮き上がり脈打っている。
緑成す樹々の、草花の、ひとつひとつの葉脈が、力強く浮き上がり脈打っている。
肌に感じる。
あらゆる動物たちの筋肉が踊り動いている、飛び、走り、舞い、泳いでいる。
あらゆる動物たちの筋肉が踊り動いている、飛び、走り、舞い、泳いでいる。
胸に感じる。
カピタルとルロウ、六千の人々の、恐れと希望のこころが震えている。
カピタルとルロウ、六千の人々の、恐れと希望のこころが震えている。
シールドが天を覆ってゆく。割れた卵の殻が再び合わさるように。森が黒なずんでゆく。殻に閉じ込められてゆく。包まれてゆく。守られてゆく。
おおいなる球体のなかに『なにか』が満ちる。すべての生命体が発するエネルギー。ひとつひとつは取るに足らなくとも、よりあわさり意志を持ち桁違いに変化するエネルギー――
「なんなんだ、これは!」
シンが耳を押さえ叫んでいる。
そうだ、やかましい、頭がへんになりそうだ、体じゅうが膨れ弾けそうだ、なんなんだこれは?
耳鳴りがする、眩暈がする、血が湧き騒ぐ、筋肉が熱い、腹の底からなにかが湧き上がって来る、この衝動は、なに?
おおいなる球体のなかに『なにか』が満ちる。すべての生命体が発するエネルギー。ひとつひとつは取るに足らなくとも、よりあわさり意志を持ち桁違いに変化するエネルギー――
「なんなんだ、これは!」
シンが耳を押さえ叫んでいる。
そうだ、やかましい、頭がへんになりそうだ、体じゅうが膨れ弾けそうだ、なんなんだこれは?
耳鳴りがする、眩暈がする、血が湧き騒ぐ、筋肉が熱い、腹の底からなにかが湧き上がって来る、この衝動は、なに?
走りたい、動きたい、跳びたい、泣きたい、怒鳴りたい、笑いたい、歌いたい、胸をはやらせ、惑い苦しみ、想い考えたすべてのことを、ありったけの言葉で語りたい、自分の外にあるものが自分の内に入り込み、自分の内にあるものが自分の外に流れ出る、ああいま俺は森とひとつなんだ、大きな輪のなかにいるんだ、鳥と獣と虫と魚と木と草と花と竜と人とあらゆる小さな生き物たちとともに、光に照らされ暖められて風に乗って運ばれて水に流され還されて土に抱かれて眠るんだ、繋がってるんだ、巡ってるんだ、森のすべてのいのちを賭けて、すべてのいのちがいま、それぞれの力を解放してるんだ、だから人間の俺はこうするんだ、脚を鳴らし拳を突き出しこころを奮わせ言葉を叫ぶ――
「俺たちは生きる!」
閉じ合わさる卵の殻、闇に沈みゆく森、シールドの隙間から射す太陽の光は細く細く細く痩せ細り、ついにただひと筋の光が残った、そのとき、コムからファリウスの声が響いた。
「――来るぞ!」
「俺たちは生きる!」
閉じ合わさる卵の殻、闇に沈みゆく森、シールドの隙間から射す太陽の光は細く細く細く痩せ細り、ついにただひと筋の光が残った、そのとき、コムからファリウスの声が響いた。
「――来るぞ!」
「Capital Forest」 -メルトダウン- 完話>>>最終章 -再びママのお話-