24.敵か味方か#7

「重要なことって何ですか」
 ウィルは思いきって聞いた。
「まだ話せない。君達の口が固ければいいのだが、噂になると困るからな。ほら、わかるだろう。みな、なんというか――噂が好きだろう? 用心せねば」
「よく言う。それを利用したくせに」
 ハルが呟いた。呟きはハヴェオに届いた。ハルは届くように言ったのだ。ハヴェオの顔が歪んだ。
「今、何か言ったかね? 私は君とは話していない、竜使いである彼と話しているのだが。邪魔するなら席を外してもらおうか」
 彼の言葉も声音も、なにもかもいやらしかった。ウィルはカッとなった。
「ハルに出て行けというなら、俺は聞きません。集会にも出ません! ガランが時計を失くしたという噂は知っています。どうせ、彼はリーダーにふさわしくないとか、あなたが代わりにリーダーになるとか、そういう話なんでしょう!」
 ハヴェオは口を一瞬大きく開け、すぐぎゅっと噛み締めた。瞳をせわしなく動かし、頬が引きつりぴくぴく震えている。ここにソディックがいたら「妙な顔だ」と言い放ってくれるだろう。
「……君は、ずいぶんと……その、自信を付けたな。うむ、悪いことではない。しかし、もう少し口の利き方に気をつけたまえ……。なにも私がリーダーになるとは言っていない。ただ、リーダーにふさわしい者が誰かを考える時ではないかと、そう呼びかけるだけだ。君達は、ずいぶんとガランに肩入れしているらしいな。否定しても無駄だ、私はちゃんと聞いているぞ。だが考えてみたまえ、君達はガランがリーダーであることを当たり前だと思っているが、彼でなければカピタルを導けない理由でもあるかね?」
 押し黙った二人に、ハヴェオは迫った。
「説明してみたまえ。ガランでなければならない理由を。そんなものは無い、そうだろう? 三十年カピタルを率いてきたからといって、今一番ふさわしいリーダーだという理由にはならないのだ。何より、彼には資格が無いのだから。もっとも大切な機械、『時計』を持っていないのだからな。――ここまで言っても、わからないのかね。頑固だな、君は。愚かだ。君の父親は、もっと賢かった。私の言うことをすぐに理解してくれたぞ」
 突然出されたサムの名前に、心臓がドクンと鳴った。
 父さんが、ガランよりハヴェオを……? あの父さんが、そう判断したということは、やっぱりそうなんだろうか。森への移住も、『開拓者』の件も、ハヴェオの言うことのほうが正しいのだろうか。待てよ、そんな話、ハヴェオは父さんにいつしたんだ? 父さんが生きている頃といえば、森に着いたばかりで移住の話なんかまだまだ先の――
 頭のどこかに血が集まっていく。ものすごく大切な、ものすごく知りたかったことの答えが、すぐそこまで来ている、ああ、集中できない、今なんの話をしているんだっけ?