25.新しき人々#5

ソディック!」
 ガランの鋭い声が飛んだ。ソディックが口を閉じる。だがもう遅かった。
 ファリウスの顔が、向こう側の全ての顔が、はっきりと歪んだ。まずい、と感じる暇も無く、ファリウスは椅子を鳴らし立ち上がった。
「竜がいないから、なんだというのだ。そんなことで我々に勝ったつもりか。もういい、あなたがたと話すことは無い」
「ファリウス殿――」
 ガランの呼びかけに応えないまま、ファリウスは自分でテントの戸布を巻き上げ出て行ってしまった。ルロウの他の者達もそれに続いた。外から低いどよめきが聞こえてきた。東側からも、西側からも。対談の行方を固唾(かたず)を呑んで見守っていた、カピタルのルロウの人々の声。
 空っぽになった向こう側を見つめたまま、ウィルは相変わらず首も動かせなかった。恐ろしいほどの沈黙。それぞれがどんな顔をしているか、見るのも怖い。
 ややあって、ハヴェオの唸り声が響いた。
「余計なことを……こんな時に……だから私は反対したのです、彼を同席させるのは危険だと!」
 ソディックは動かない。ガランがゆっくり立ち上がり、こちらに向き直った。眉がこころなしか寄っていた。
「ちと、まずかったな。が、済んでしまったことは仕方がない」
 文句を言いかけたハヴェオを押し留め、ガランは続けた。毅然とした、リーダーたる態度で。
「ハヴェオ、皆のところへ行って境界線を見張る者を20名選び、残りは普段の仕事に戻しなさい。ソディック、全てのシールド・ポールが揃うのはいつか詳しく知りたい。一緒に私の家に来てくれないか。それからウィリアム、君は待機だ。しばらく森の探索はしなくてよい。シーサの調整をしていなさい。ああ、場所は必ず西はずれで行うこと。彼らに見付からないようにな。シーサは我々の切り札になるかもしれない。わかったね」

 シーサはますます成長し、ウィルの背をとっくに追い越している。もう少しで騎乗できそうだ。
 毎日、ハルと一緒にシーサの調整を続けた。といってもシーサに必要なのは走る訓練ではなく、ゆっくり歩く訓練だ。走りたくて走りたくてうずうずしているところを、根気良く自分の後について歩かせたり、離れた場所に待たせたり、笛で呼んでもダッシュしないようにする訓練。
 初日は数人の村人達が見物に来たが、歩かせるだけの訓練に見飽きて翌日からは来なくなった。例外はラタだ。家にいても落ち着かないと言って、毎日やって来た。目と鼻の先にテントを構えているソディックは、一度も出て来ない。シールド・ポールの製作に追われているのだろうか。