37.ラタの谷#2

 バーキン草原を横ぎり西のルートへ進む。サムのルートを見つけるまで通った川下への抜け道。何ヶ月ぶりだろう。
 林を抜け、感染騒動があった例のルロウ移住区に向かった。初めて踏み込んだ彼らの移住区は、数十日前の悲惨さを忘れたかのように落ち着いていた。対岸から眺めただけでもそうとわかった過密なテント群も今はほどよくばらけている。ごちゃごちゃしていた水辺も、見渡したところよく管理され清潔そうだ。
 竜の到着を待ちかまえ走り寄って来た子どもたちを見て、ウィルはあっと声をあげた。彼らのどの肩にも、小さな生き物がちょっこり取り付いていたからだ。
「プラリ!」
 十数匹のプラリたちは子どもたちの肩や頭や腕の上をチョロチョロ動き回っている。胸元のホックに尻尾を巻きつけて逆さまに張り付いているプラリもいる。
「プラリ? なんのことだ?」
 不審がるパドに説明した。一年前に見つけたプラリの親子のこと、ルロウの移住で林が荒らされていらい見かけていなかったこと。
「おいおい、荒らしてなんかないぜ。人聞きの悪いこと言うなや。まあ、ちっと乱暴な通りかたではあったけどよ……その生き物、プラリっていうのか? ほぉー。良かったなお前ら、そのちっこいのを呼ぶ名前ができたぞ」
 それから「さ、俺達は仕事だ。危ないから下がってろ」と子どもたちを追いやり、上流に足を向けながら言った。
「あの生き物、可愛いよな。レイリーがペットにしたがってるんだが、このあたりの林から出ようとすると離れちまうんだと。この前、無理やりポケットにねじ込んだまま出ようとしら無茶苦茶されたらしい。そうそう、レイリーに会って何か見ても口には出すなよ。笑いたくても我慢しとけ。殴られっぞ」
 ……会わないでおくのが一番だ。
 集落の端でロックとシーサを村人に預け、オーエディエン竜を引き連れてさらに上流へと歩く。しばらく行くと、やがて材木を降ろす空き地が見えてきた。ルロウの屈強の若者達が十数人、荷降ろしの手伝いに集まっている。こちらに向き、軽くではあったが、一斉に頭を下げた。パドに対してというより自分への挨拶だと、ウィルは感じ取った。
 川の真ん中には大きな中州が広がっていた。あそこを中継点にして対岸まで木板を渡すんだとパドは言った。うまくいけば、純血パルヴィスが渡れる造りの橋になるらしい。本当にそうできたら、バーキン草原と休憩所がほとんど一直線につながる。シーサなら太陽が動かないうちに駆けきりそうだ。森のあちこちがどんどん近くなる。