38.答えあわせ#1

 待ちわびていた連絡がソディックから入った。最後のシールド・ポール二本が完成したと。
 シーサで駆け付けた休憩所は、周囲の木立が切り拓かれ、テント群に囲まれ、ぽつんと林のなかにたたずんでいた以前とずいぶん雰囲気が違う。休憩所というより司令塔といったところだ。
 出てきたソディックはポールの一本を差し出し、残り一本はこれを埋め終わってからでいいと言った。手分けして早く埋めなくていいのかと聞くと「君が八本とも埋めたがると考えた。埋めたくないなら他を当たる」と渡されかけた一本まで引っ込めかけたので、「埋めます、埋めたいです」と慌ててもぎとった。……ウィルの意地を、彼なりに気に掛けてくれていたようだ。
 七本目のシールド・ポール座標は森の真南。つまりカピタルの位置だ。村のどのあたりだろう。ソディックは「行けばわかる」と口の端を上げたきりだ。そのかわり、意外なことを言い出した。
「そう、君に報告することがある」
「報告?」
「解が出た。ガランの授業で私が感じた疑問の答え。君と途中まで考え最後まで行き着けなかった答えだ。なぜ首都を出発した100億の人間、100万の共同体のうち我々だけがこの森を見つけたのか。確率的に100倍の人間がここを見つけてしかるべきなのに、なぜ姿を現さないのか」
「あっ、その話ですか。すっかり忘れてました」
 本当に忘れていた。どうでもいいと思っていたわけじゃ――いや、最近のあれやこれやに比べれば、正直言ってどうでもよかった。ソディックは気を悪くする様子も無い。もとからあてにしていなかったのだろう。
「すみません。で、どうやってわかったんですか? 考え続けて?」
「考え続けて煮詰まっていたらガランが助けを寄こした。彼の口利きでルロウの『時計』を借り受けた。構造を調べれば解けるだろうと彼は言った。確かに解けた。私は計算の元の値を間違っていた。これがそもそもの始まり」
「へぇ。で、どんな答えだったんですか」
 当然すぐ教えてくれると思ったのに、ソディックはパチパチッと瞬きすると、首を振った。
「繰り返す。計算の元の値を間違っていた。ここから予測可能」
 教えてくださいよとせっついてもソディックは「教えない」とつれない。少し意地悪く「その答え、本当に合ってるんですか」と聞くと彼は眼鏡をずり上げ胸を反らせた。
「合っているはず。ガランに確認する」
「それにしても、あんなに考え続けて出なかった答えが『時計』ひとつで解けるなんて……『時計』ってすごいな」
「すごくない。実に単純な機械。私は事実の力で恐れを掃っただけ。わかってしまえば簡単な解だった」
 簡単と聞いて、また猛烈に答えを知りたくなった。だがソディックはポールをこっちに押しつけ、自分の研究部屋に引っ込んでしまった。ウィルは渋い顔でポールを皮袋にしまい、すぐカピタルに向かった。
 シーサと走りながら、疑問が湧いた。ソディックの言い方からすると、ガランは初めから答えを知っていたようだ。彼は何をどこまで知っているのだろう、なぜそれを誰にも語らないのだろう。ソディックの言葉を借りるなら、それは『恐れ』を呼び起こすことだから、か?――