38.答えあわせ#3

 並ぶと、マリーはまた一段と小さく感じる。……俺の背が伸びたのか。
 ウィルは足元の焚き火の跡を指差し、新月祭のことを思い出していたと話した。
「いろいろあったけど、楽しかったなと思って――これからは、あんなふうにみんなで顔を合わせることも無くなるのかな」
「大丈夫。移住が落ち着いてメルトダウンを越えたら、また開催するそうですよ。毎月とはいかないだろうけれど、でも今度からはルロウも一緒よ。森じゅうに散らばった人達がお祭りのために集まって来るのですって」
「へえ! 賑やかそうだなあ」
 そんな人数、どこに集まるんだろう。やっぱりバーキン草原だろうか。マカフィ達がルロウの若者と一緒になって馬鹿騒ぎする様子がありありと目に浮かぶ。マリーもなにかが目に浮かぶといった顔で、声を弾ませた。
「明るい晩のほうがいいから、満月祭に変わるかもしれないわね。子ども達も参加できるそうですよ。ミードの代わりに『甘い』飲み物を用意して……きっと大喜びするでしょうね」
 そういえば今日は子ども達は?と尋ねた。マリーが引き取り育てている、親のいない子ども達のことだ。マリーは、ネイシャンに頼んでひとつ前の移住グループで出立させたと答えた。
「私はラタのそばに付いていたかったから、三日遅らせて今日にしたのよ」
 なんとなく黙り込んだウィルの腕を、マリーはちょんと突ついた。
「ラタから聞いていますよ。ウィリアム、私との約束を守ってくれてありがとう。あなた、いつのまにか、優しい大人になりましたね」
「別に、そんなんじゃ……」
 頭を掻いた。優しい大人だなんて、そんな面倒なモノにはなってないし、これからもなれない、と本気で思う。
「本当に優しい大人は先生でしょう。ラタはそう言ってた。俺もそう思うけど」
 照れ隠しに言うと、マリーは目を丸くした。「どんなふうに言っていたの」と聞き返され、ラタが言っていたことを伝えた。
「――『だから、わたしはママみたいにはなれない』って。でも俺は、先生と同じにはなれなくても、ラタなら別のやりかたで同じくらい優しくなれると思った。カピタルで一番優しい人間に。今すぐは無理かもしれないけど」
 じっと聞いていたマリーは、低く、真面目な声で言った。
「そう。そうね、ラタならきっとうまくやれる。なりたい自分になるでしょう……でもねウィリアム、誉めてくれるのは嬉しいけれど、優しさに一番二番はないと、私は思いますよ。少なくとも私は、一番優しい人間ではないわね。どちらかといえば、むしろ冷たいほうだと思いますが」
「まさか!」
 ウィルは強く打ち消した。
「先生より優しい人間なんていない。冷たくなんか! そんなことない!」
 ハヴェオの言葉が頭をよぎった。彼はガランやマリーを名指しして「みな同じ類の人間だ。けしてこの気持ちはわからない」と決め付けた。あんな冷血漢達になにがわかると言いたげに。それはウィルにとっては許しがたい暴言だった。