25.新しき人々#7

 確かに彼らと自分達はまるで違う。けれど――似ている奴がいた。ウィルはそう思った。彼らのやりくちのひとつが、ある男にそっくりだった。ハヴェオのやりくちに。それが許せない。ただそれだけで、卑劣な奴らだという気がする。あいつらは敵だという気がする。
「まだ質問が残っているようだね」
「はい。彼らの考え方が引っかかって。賛成する人間が多い方が勝つんだとか、何かをしてやるから何かをよこせとか、そんなやりくちがまるでハヴェオ――」
 はっと口をつぐんだ。
 ガランが首をかしげ「ハヴェオ?」と問い返す。
 彼の目付きは鋭かった。誤魔化せない、と直感した。
 ハヴェオが村中に流した噂を、ガランは間違いなく知っているだろう。それでも、自分が口に出したことは説明がつかない。「何かをしてやるから何かをよこせ」という取引があったことを知っているのは、ガランとハヴェオ二人だけなのだ。あの夜、フィブリンの陰で交わされた会話。
 ウィルは観念した。うつむき、ぼそぼそと正直に告白した。二人の話をフィブリンの陰で聞いていたことを。
「おやおや」
 話を聞き終ったガランは眉を大きく上げた。だが叱ることもせず、意外なことを言った。
「それで、君はどう思うね。ハヴェオが私に持ちかけた取引、彼らが私に突きつけた取引を。それにそう、賛成する人数が多いほうが勝つのだという考え方も。どう感じる?」
「どう感じるって……そんなやりくち、卑怯だ、と思います」
「なぜかな。どこがどう『卑怯』なのかね。よく考えてごらん」
 ガランは笑っていた。こんな時に。
「ウィリアム、本当に『卑怯』な人間は、真正面からあんなことを言ったりはしないよ。あの夜ハヴェオが私に交渉を持ちかけた時の態度は、実に堂々としていた。ルロウの人々もそうだ。我々と彼らは違うだけだ。私とハヴェオもそうだ。どちらかが卑怯でも、どちらかが頑固でもない」
「だって、おかしいです! 同じ人間なのに、こんなの変だ! ハヴェオと俺なんか、同じカピタル人なんだ、それなのに」
 うーむ、とガランは唸った。「どう言ったものかな」と独り言のように言って、ひょいっと指を上げた。
「こう考えてごらん。彼らは『新しき人』だ。ハヴェオもだ。カピタルの中にも、もっといるはずだ」
「『新しき人』?」
「そう。カピタルが首都から出発してから八十年経つ。首都の豊かな生活に支えられた人間の心と、砂漠の厳しさに鍛えられた人間の心は、異なってくるのだよ。我々はゆっくり世代交代してきたから、首都で培った心が多くの人の中にまだ残っているのだ。なんと言えば良いかな、争いごとを表立てずに、できるだけ皆で平安に生きてゆこうという心……といったところかな」