09.遭遇 #3

イメージ 1 光が溢れる。

 思わず、手のひらで目を覆った。眩しくて、開けていられない。
 額と両肩に、太陽の熱を感じる。吹き付ける風が、上着をはためかせた。土臭さはいっきに消え、暖められた草の強い匂いがむせかえるようだ。
 ウィルはそろそろと、かざした手を降ろし、その輝く風景を目に収めた。
 
 ――光の草原だ――
 
 背の高い草の群れとオレンジの花が、どこまでも続くなだからな丘。
 風になぶられ、深い緑の筋が西から東へ向かい走っていく、と同時に、オレンジの花がうねるようにお辞儀をリレーしていく。
 ウィルは我知らず、叫んでいた。
 子供がはしゃいだときに出す、言葉の形をなさない、感情のまま放つ叫び声を。
 エヴィーが、ぶるんと身震いする。
「エヴィー、行こう!」
 鐙(あぶみ)を鳴らす。エヴィーが飛び出した。
 風に揺れる草と花を掻き分け、丘の頂上に向かい一直線に走る。
 丘の向こうに、一本の大木が見えた。大きな枝に緑の葉と白い花が鈴なりだ。大木の根元は、散った花で白く染められている。風が吹くたび、枝の上から、地面の上から、白い花びらが吹き上がり東に向かい舞っていく。
 なんという爽かさ!なんという鮮やかさ!
 マーキングを気にしながら暗い林の中を歩いた数日間が、味気なく思えるほどだ。
 ウィルは大木のふもとまでエヴィーを駆けさせた。
 花びらで埋まった根元でエヴィーを止め、下に飛び降りる。
 草の匂いとはまた違う、わずかに「甘い」ような香が、辺りを覆っていた。
 エヴィーの手綱を結び付けようとしたが、幹があまりに太くて結べない。しようがないので、手綱はそのまま下に垂らし、エヴィーの背から降ろした荷物で軽く押さえた。
 それからウィルは、その堂々とした木をじっくり観察した。
 大木といっても、抜けてきた林の木とは、ずいぶん違う。茶色く太い幹に、瘤(こぶ)と穴がぼこぼこと交互に凹凸(おうとつ)をつくっている。手が届きそうな位置から太い枝が大きく、しかもぐるっと張り出し、この木一本で、ウィルとエヴィーが休むには充分に日差しを遮ってくれる。それも、林のような薄暗さではなく、日差しの眩しさだけを遮り、明るさと暖かさはそのまま残してくれるというぐあい。
 ウィルは、土を盛り上げ突き出している根に腰掛けた。エヴィーも、脚を折って腹を花びらの絨毯にうずめる。
「エヴィー、休憩しようか」
 語りかけ、ハルが準備してくれた荷物をほどいた。休憩にもってこいの物が、中に入っている。
 皮袋に入れたミード、それを暖めるための鍋と携帯コンロだ。
 暗い林のなかでは、腰を降ろしゆっくり飲もうという気が起きなかった。でもここなら、最高に美味しいミードになりそうだ。