09.遭遇 #4

 予想にたがわず――いや、予想よりはるかに素晴らしく、休憩のミードは美味しかった。
 ハルには、一人で飲むミードなんか美味くない、と言ったけど……やっぱり、ミードはいつ飲んでも、いい。ウィルは自分に正直に、そう考えた。
 ミードを飲み終え、急に眠くなってきた。
 疲れたわけではない、けれど、体中を暖かい手で撫でられているような、この日差し。心地よく体温を下げてくれる風。エヴィーも、目を半開きにして首を傾けている。・・・寝るなというほうが、無理だ。
 荷物を枕に、手袋を目の上に載せ、本格的に横になった。
 こういうときは、我慢せずに、短い間ぐっと眠ったほうがいい・・・。
 
 コツン、と頭に何かがぶつかった。
 寝ぼけながら、頭を触ったその手の甲に、またひとつコツン、と当たり、顔に転がってきた。
 ウィルはパチリと目を覚ました。しばらく状況がのみこめず、だが次の瞬間、がばっと跳ね起きる。
 隣で気配を察したエヴィーが、くっと首をもたげた。
「あ……れ?」
 ――しまった、か?
 急いで辺りを見渡した。
 草原は相変わらず明るく、風が吹き渡っている。しかし、太陽はもう午後の位置に動いていた。……失敗とまではいえないが、少し眠りすぎたようだ。
 その頭へ、またしてもコツン、と何かが当たり、膝にポトンと落ちた。
 なんだろう? 指先ほどの、小さく固い、茶色い塊だ。表面はつるんと光沢があり、木の匂いを凝縮したような香りがする。
 どこから落ちてきたんだろうと、上を見上げ、はっとした。
 くりくりとした丸い目が、こちらを見降ろしていた。
 葉の陰になって、よく見えないが、顔の大きさからすると、小型の獣のようだ。黒いつぶらな瞳をして、危険な様子はない。
 ウィルは立ち上がった。葉を透かしてみようと顔をひねる。茶色と白の毛が交じり合った、ボールのような小さな体がちらりと見えた。すぐ近くにいるようで、手を伸ばしても届かない。
 何かを、足場にすれば……といっても、特に道具はないけれど。
 いや、道具なんか、いらないかもしれない。
 枝を四方八方に伸ばした大木は、梯子(はしご)を上るくらい簡単に登れそうが気がする。一番低い枝なら、エヴィーの背から飛び移れそうだ。太さも充分ある。
 腹を地面にぺったり着けていたエヴィーを立たせ、ウィルはその背を足がかりに枝を掴んだ。体をどう動かせばいいのか、力の入れどころがわからない。それでもなんとか、四苦八苦して枝の上に上った。自分が乗っても、太い枝はビクともしない頑丈さだ。