33.ガランの過去#11

 ウィルの様子を見ながら、ガランは続ける。
「君がハヴェオをどう思っているか、おおよそは理解している。君は彼を低く評価しすぎている。彼は優秀だよ。ひとつ教えてあげよう。カピタルの住人のほとんどは、二十年ほど前まで『仕事』を持っていなかった。みな、自分のことだけを構い、砂漠を歩く毎日だった。その張り合いのない日々が、多くの人を覚めない眠りへと駆り立てた。私はそれを憂いた、勿論ハヴェオも。彼は素晴らしい提案をしてくれた。皆が『仕事』に就いてはどうかと。仲が良かったジニー・ヒルとともに、誰がどんな仕事を希望するかをまとめ上げ、実にバランスよく配置した。あの日以来、自ら覚めない眠りを呼んだ者はほとんどいない。カピタルの今があるのは彼と、ジニー・ヒルのおかげだ……と、私は思うのだが……あー……気に入らないようだね」
 聞くほどに、ウィルは不機嫌になっていた。理屈も、カピタルの歴史の授業も、真っ平だ。俺が聞きたいのは、そんな捉えどころのない話じゃない、あいつを一番あいつにふさわしい言葉で呼んでいいか、どうかだ。
 黙って突っ立っているウィルを見上げ、ガランはまた長いため息をついた。二度も。
 それから、皺が刻まれた長い指で額を掻き、頭を軽く振った。
「仕方がない……そこへお掛け。少し長い話をしよう」
「ハヴェオの話ですか」
「最後には彼の話になるよ。だからしばらく我慢して聞きないさい」
 彼はベッドの上で深く座りなおし、こう語り始めた。
「――私が以前いた共同体をなぜ離れたか、知っているかね」
 突然の質問に、ためらった。その答えは、噂としてカピタルじゅうのものが知っていた。ガランにとっては不名誉な、しかも似つかわしくない噂だったから、誰も聞いて知らないふりをしていた。ウィルは低く答えた。
「噂でなら」
「どんな噂かな」
「追放された、って、それで」
「そう」
 ガランはこっくりとうなずいた。ウィルは眉を寄せた。
「それが、ハヴェオの話と関係があるんですか」
「私には、ある」
 ガランは目を細めた。遠い過去の記憶をたぐっているのか、瞼の向こうで瞳が小刻みに動いている。
「私が首都を出たのは、二十のときだ。配属された共同体は、みな絶望にうちひしがれていた。リーダーが、なんというか、悲観的な男でな。あてのない放浪で砂に埋もれて死ぬくらいなら、メルトダウンで数十年後に死んだほうが幸せだというやつだった。第一、自分達が死ぬ日までにはメルトダウンは来ないと、皆の前でそう言って憚(はばか)らなかった。私は彼が大嫌いだった。臆病者としか、思えなんだ」
 ウィルは黙って聞いていた。その臆病者の姿が、目に浮かぶようだった。