33.ガランの過去#13

「方角には自信があった、しかし道のりの長さは私の予想をはるかに越えていた。なんとか持ちこたえていた仲間の数が、ついに百人をきった。考えてみれば、当たり前だ……ただでさえ過酷な環境で、互いに不信を抱きあった者達が生き延びられるはずがない」
 そうだろうな、と思った。ウィルの中で、砂漠を旅していたときの光景と感覚は、けして忘れることのないつらいものだった。砂漠で生まれ、それ以外の環境を知らないウィルでさえ。
 いつまでも続く空腹、渇き、容赦ない乾燥。このまま溶けるかと思うほどの暑さ、このまま凍るかと思うほどの寒さ。誰も口には出さないけれど、『森』なんて本当にあるのか、明日にもメルトダウンがくるのではないか――
 サムとハルが、頼りになるリーダーと優しい仲間達がいてさえ、つらい、つらい旅だった。
 ウィルはガランの表情を見守りながら、ゆっくり言った。
「そして、追放されたんですね」
「そう。私『嘘つき』と呼ばれたよ。『人殺し』とも。『裏切り者』とも。追放されたのではない、私は逃げ出したのだ。そうしなければ殺されるところだった」
「『森』が見つからなかったから? それは、ガランのせいじゃないでしょう。俺達のように、あきらめずにもっと探せば」
「仕方なかろう。彼らは見つけられなかったのだから」
「だからって――」
「私がしたことへの当然の報いなのだ。今思えば、私は仲間をなんと口汚く罵ってきたことか。そもそもの始まりは、私が皆の前で自分のリーダーを罵倒した『臆病者』という一言から始った。私は若かった、考えが浅かった。自分の言葉が何を損なったか、まるで知らなかった」
 ガランの声は震えていた。年齢を重ねた彼は、ラタのように激情のままに涙を流すことはしなかったけれど、ウィルにはわかった。彼は今、誰にも明かさなかった自分の過ちを前に、震えているのだった。
「あるいは、私が居なかったとしても、あの共同体の命運は同じであったかもしれない。しかし限りある時間であるからこそ、過酷な世界であるからこそ、仲間と手を携えて生きるべきだったと、今は思う。私は仲間達の命を奪っただけではない。彼らを疑いと諍いの渦に放り込んだ。彼らの豊かであったはずの生を、だいなしにした。私の、くだらない意地と競争心とで」
 ガランは一気に語り、目を閉じた。
 シンとした部屋の窓の外で、春の突風が吹きぬける音がした。
「ウィリアム、」
「はい」
「君はどう呼ぶかね。仲間を踏みにじった、死に追いやった私を?」
 答えないウィルに、ガランは薄く目を開けて続けた。
「『裏切り者』と?」
「いいえ」
 ウィルは強く首を振った。
「いいえ、そんなふうに呼ぶ資格は誰にも――」
 言いかけて、口をつぐんだ。
 こちらを見つめたガランが、微笑んでいる。
 ……やられた。