38.答えあわせ#8

 少し離れた場所で、下草を噛みしごいて遊んでいるシーサの元へ向かった。と、「おーい」とバーキン老人の声が飛んで来た。
「どうだった? いい話ができたかね?」
 声と一緒に、待ちわびたという勢いで本人も飛んで来た。しかし浮かないウィルの顔を見取ったのか、人のいい老人は白薄い眉をしょんぼり下げた。
「ううむ、やっぱり難しかったかのう? ……でもまあ、話しに来てくれてありがとうさん。後はわしがやるよ、ウィリアム。それじゃ、しばらくどこかで時間を潰してもらえんかの。できるだけ急いで――」
 背後の物音にバーキン老人は振り返り、口をつぐんだ。
 戸布を開け、ハヴェオが出て来たのだった。軽い上着をちゃんと着て、手には作業用の手袋をはめている。
 彼は両手を突き出し、ひとつぐっと伸びをして、陽射しが眩しくて仕方ないというふうに目の上に手をかざし、よろめきながら歩き始めた。バーキン老人の前まで来ると、黙って見守る二人の視線に照れ笑いながら言った。
「赤ん坊が立ったばかりみたいに見ないでください。どうもふらふらする……運動不足だ。参った」
「そりゃそうじゃ。少し散歩したらとわしが勧めても、お前さんときたら頑固だったもの。年寄りの言うことを聞かないからさ、なあ?」
 はちきれそうな笑顔で、バーキン老人がウィルに片眉を上げてみせた。
 ハヴェオは、なにもかもが撤収され広々と空いた外周区を見回し、村の物音に耳を澄まして言った。
「もう皆、出発したのか。急いで撤収しなければ」
「俺、手伝います」
 自然と口に出た。バーキン老人は頼もしいと手を鳴らし、ハヴェオは黙って軽くうなずいた。
 それからは三人揃って、黙々と撤収作業に精を出した。テントのペグを抜き支柱を倒し、大きな防水布を三人がかり畳む。こまごました荷物を皮袋と箱に詰め並べる。伸び盛りのウィル、出歩かない生活で筋肉の落ちたハヴェオ、見た目に似合わない馬鹿力のバーキン老人、三人の働きは互角だった。途中から三人ともそのことに気付き、にやにや笑いながら半ば競うようにして、座らせたオーエディエン竜の背へ次々と荷物を担(かつ)ぎ上げた。
 すべて片付いたところで、バーキン老人がとんとん腰を叩いて言った。
「やれやれ、ウィリアムのおかげで助かった。さて、どうするね、少し休んでから行こうか?」
 ハヴェオは首を横に振った。
「いや、出発しましょう。ゆっくり進めばいい。私が騎手をやります、あなたは後ろで休んでいてください」
「そうかね。じゃあ、頼んだよ」
 バーキン老人は竜の背の後ろに登り、服か寝袋かなにかを詰め込んだ柔らかそうな大袋にすぽんと腰を埋めた。
「おお、こりゃ楽ちん。寝てしまってもいいかの?」
 まるで子どもだ。ハヴェオは「いいですよ」と笑っている。そしてウィルへ向き直り、「君は?」と尋ねて来た。シールド・ポールを埋めてから帰ると答えると、彼は「そうか。御苦労」と当たり前の顔で言い、それから竜の前の席によじ登って手綱紐を握った。指笛を鳴らす。巨体がのっそりと立ち上がった。