39.作動せず#5

「え? あれ? ソディックさん?」
「私だ」
 いつもどおりのソディックの声が返ってきた。ひとつ前の叫びは――それも、ソディックの声にしか聞こえなかったけれど。
「完了したんですか? 完成って、シールドが? 完璧に? ていうか、まさかそっちでもずっと見てたんですか?」
「シールドはまだ。だがポールは全て予定地に埋った。完璧。探知機の倍率を戻して見ればわかる。完璧!」
 最後の言葉の最後の「き」が裏返っている。こんなに興奮している彼の声は初めて聞いた。
 探知機を掴みパネルを確認する。第八地点にフォーカスしている倍率を下げる。ツマミが一気にねじると、一瞬暗く落ちたパネルがぱっと元に戻った。
 色とりどりの光点が八つ、浮かび上がった。完全円の周に頂点を置く正八角形。
「完璧!」
 コムに向かい、ウィルも叫ぶ。右手に探知機を、左手にコムを握り、両腕を天に突き上げる。
「完全、完璧!」
 ソディックの叫びが左上から降って来た。
 げらげら笑い飛び跳ねるウィルにあわせて、シーサが首をこくこく振っている。しまいには遠吠えまで放った。
 やっと両腕を下ろし立ち止まり、ウィルはコムを握りなおした。すでに通信ランプは切れている。ソディックを呼び出すと、「落ち着いたか」と愛想のない声が返って来た。そっちだってわかりやすく興奮してたくせに。
「今晩はここで一泊して、そっちに帰ります。で、聞きたいんですけど――シールドはいつ張るんですか。メルトダウンて、まだ来ませんよね?」
「明日データを再確認し、シールドは明後日テストする予定。メルトダウンはまだ来ない。いつ来るか、知りたいか」
「今夜でなければ、いつでもいいです」
 コムから変な音が聞こえてきた。どうやらソディックの笑い声らしかった。ウィルの最後の答えが可笑しかったらしい。
 自分でも可笑しかった。なんなんだろう、この安心感。この達成感。ずっと自分を押さえつけ続けていた大きな大きな重石がふっと消えた、というより、自分の腕でやっと投げ捨ててその上にあぐらをかいて座ったような、そんな気持ち。
 最後にもう一度ポールの様子を確認し、シーサと外周に引き返した。
 二十リールほど森から離れ、シーサとともに砂の上に寝そべった。森のほうを頭に西を向いて、シーサの尾を枕にして。
 満天の星空が広がっている。ちょうど一昼夜前、ガランが見ていたのと同じ星空。
 自分の胸の上で両手を握り、ウィルは目を閉じた。おやすみなさい、とこころの内で呟き、深い眠りについた。